©100マイル地元食
EPISODE #175
【保存食】春の日本海がまるごと詰まった干物
寿都と余市で買い込んだ鮮魚と、岩内町の自販機で買った海洋深層水。作るのは干物です。干物作りには何度か挑戦してきましたが、今回は初めて海水で仕込みます。同じ日本海の魚と海水、相性は抜群です。
今回は、海洋深層水を使った干物作りと、干物を作る3つの理由のお話。
寿都の「すっつ浜直市場」で買った宗八ガレイ(そうはちがれい)と、余市の新岡鮮魚店で買ったニシンとホッケ。3種類とも春に岸に寄ってきて多く獲れます。脂がのって一番美味しい時期が、一番安い時期。旬の食べ物というのは本当に魅力的です。
でも、全部で2kgはあるでしょうか。生のままではとても食べ切れないので干物にして保存食にします。普段なら貴重な地元の自然塩を水に溶かして魚を浸け込み味付けをするのですが、残った塩水を捨てなくてはならず、いつももったいないと感じていました。
でも今や、我が家には5リットルで100円の海洋深層水があります。塩分濃度は5%と干物作りには少し薄いですが、何とか工夫して作ります。ここまでして干物作りをするには理由がありました。100マイル地元食に挑戦している我が家らしい3つの理由です。
①今しか手に入らない魚を保存できる。
100マイル地元食は、自分から100マイル(160.9km)の範囲内でとれた物だけを食べるライフスタイルです。魚は季節の移り変わりにあわせて移動するもの。どの魚もその季節にしか出会えない貴重な食べ物です。保存食の干物にすれば、旬の美味しさを取っておくことができます。
②すぐに食べられるファストフィッシュになる。
市販の加工食品がほぼ買えない我が家のライフスタイルでは、忙しくて時間が無い時でもご飯を作らないといけません。干物は冷凍しておけば、食べたい時に焼くだけの貴重な食べ物です。味付けも他の食材も要らず、すぐにご馳走の出来上がり。ファストフードならぬ、我が家のファストフィッシュです。
③生のままより美味しく食べられる。
実は、宗八ガレイは水気が多くて独特の匂いがあります。ニシンは小骨が多くて食べづらい。ホッケも水気が多い魚です。どれも生のまま焼くには難があります。ですが、干物なら適度に水気が抜けて旨味が濃くなりますし、小骨も柔らかくなって気になりません。干物にした方がより美味しくなる魚もいるんです。
買って来た魚を新鮮なうちに処理します。宗八ガレイは頭を落として内臓を取り、ニシンとホッケは頭を落として開きにします。まだまだ上手とは言えない包丁捌きですが、我が家で食べるものですから、ちょっとぐらいの不細工は気にしません。
ここで海洋深層水の登場です。封ができる袋に魚を入れて、塩分5%の高ミネラル塩水をたっぷり注いだら、空気を抜いて冷蔵庫に入れます。一般的なレシピでは10~15%の塩水に30分ぐらい漬けますが、塩分が薄い海洋深層水なので4時間漬け込みました。
普通なら塩抜きのために水洗いしますが、今回は洗わずに水気を拭きとるだけにします。ホームセンターで買える干し網に丁寧に並べたら、風通しの良い窓際に吊り下げて1日干します。表面が乾いて身に弾力が出てきたら干し上がりの合図。でも、自分で食べるんだからお好みで大丈夫です。
保存食にすると言っていたのに、ちょうど良い塩梅に出来上がった干物を見たら、すぐに食べたくなってしまいました。ニシンの干物をガスコンロのグリルで焼きます。焼くというより弱火で炙るぐらいで十分です。熟成された旬の魚の良い香りが漂います。パチパチと音を立ててしみ出してくる脂が食欲を直撃します。
ふっくらと干しあがった身は、生のまま焼いた塩焼きとは全く別物の旨味を内に秘めています。海洋深層水が染み込んだ塩味は、自然で複雑で、それでいて尖った塩辛さがありません。温かくなり始めた春の海を泳ぐニシンを、海も丸ごと食べたような味です。
地球の裏側の海で獲れて一年中スーパーに並び、いつでも食べられる魚もあります。でも、いつでも行ける地元の海に来てくれた旬の魚の美味しさは、はるかにその上を行きます。この土地の海の魅力と我が家のストーリーがぎっしり詰まった魚の干物。食卓がまた豊かになりました。
※何度か作ってみて、好みの塩味になるように漬け込む時間を調整してください。開いていないカレイや、厚みがある大きな魚は味が染みにくいです。
※干物はラップをして冷蔵庫で2週間程度保存できますが、もっと持たせたい場合は冷凍保存します。