春はいつどこから来るのでしょうか。山の木々が芽吹くとき?雪の下からフキノトウが顔を出すとき?ここ北海道では、雪に閉ざされていた植物たちを、春が優しく目覚めさせるのはもう少し先です。北海道の春は海から来る。この日の日本海での買い出しでそう感じました。

今回は、寿都と余市の魚から感じた、すぐそこまで来ている春の気配の話です。

魚屋さんで春を感じる

日本全体を覆っていた寒気が太平洋高気圧に押し上げられるようになると、テレビからは気が早い関東地方の桜の開花予想のニュースが流れてきました。でも、桜前線が我が家がある札幌まで登ってくるのは4月末になってから。ここではお花見はゴールデンウィークにするものです。

北海道の春が山からやってくるずっと前に、一足早く春の気配を感じさせてくれる場所があります。それは海です。地上の気温がマイナスでも海の中はプラス。魚たちの営みは着実に近づいてくる春を逃しません。じゃあ、人間はどこで春を感じるか。それは魚屋さんです。

この日も、札幌の北西側に広がる日本海は穏やかでした。空気は冷たくても、海面を照らす優しい陽の光はポカポカと心地よい温かさがあります。日本海に魚を買いに行くと言えば、まずは寿都町(すっつちょう)にある寿都漁協直営の直売所「すっつ浜直市場」です。

春の寿都漁港
春の日差しを受ける寿都漁港

 

すっつ浜直市場の本マス

寿都町役場で働く魚博士の大串さんから、連絡をもらっていました。

「最近、本マスが揚がってますよ。」

本マスとは、サクラマスのことです。川で産まれたヤマメが海まで降り、大きく育って産卵のために戻ってくるとサクラマスになります。ちょうど桜が咲くころに戻ってくるからサクラマスなのです。ダムが少なく川と海の行き来がしやすい北海道だからこそ食べられる貴重な魚です。

札幌から3時間の運転で到着した「すっつ浜直市場」の鮮魚売場。何度も来ているので、お店のお母さんたちに顔を覚えられていました。お母さんは大きな本マスを薦めてくれました。脂がのっていそうな体高がある見事な本マスです。奮発して買うことにしました。

本マス
体高がある脂がのった本マス

本マスはどうやって季節の移り変わりを読み取っているのでしょうか。毎年この時期に帰ってくることで味わえる春の味覚です。他にも、宗八ガレイとタケ(ウスメバル)と水揚げされたばかりの透き通ったヤリイカも買いました。ここに来ると、やっぱりいつも買い過ぎてしまいます。

宗八ガレイ
独特の香りがある宗八ガレイ
余市の新岡鮮魚店のニシン

もう1軒、いつか寄ってみたい魚屋さんがありました。札幌から寿都に来る途中、通り過ぎる余市(よいち)の町で、いつも気になっている国道5号線に魚屋さんがありました。新岡鮮魚店です。大きな発泡スチロール箱が並び、いつも自家製の魚の干物を作っています。

新岡鮮魚店
軒先で魚を干している新岡鮮魚店

この日、初めて立ち寄った新岡鮮魚店、お目当ての魚はニシンでした。ニシンは、春の訪れを知らせる「春告げ魚」として知られています。かつての北海道の西岸は、鰊御殿が立ち並ぶほどこの魚の恩恵を受けていました。漁獲量が減った今でも、地元で愛されている魚です。

春告げ魚のニシン
余市港で揚がった春告げ魚のニシン

このお店に並んでいる魚はどれも抜群の鮮度です。目も澄んでいるし、お腹もパンパンに張っています。どれを買っても美味しいんだろうなあ、と思いつつも先に寿都で買った山ほどの魚を思い出しました。ニシンとホッケだけに我慢しました。また通いたくなる魚屋さんができました。

買い過ぎた魚はあの秘密兵器で料理する

魚がぎっしり詰まったクーラーボックスを乗せて家路につく私。春の旬の魚を早く味わいたい。まだまだ先だと思っていた春は、知らぬ間に海の中から近づいていて、魚屋さんまで来ていました。我が家が季節を感じるのは、いつも決まって食べ物からです。

寿都漁港
日に日に近づく春の気配を感じる

本マスは、一度凍らせて解凍させてから刺身で食べるルイベにして、タケは「垂れ醤油」を使って甘辛い煮つけにしようかな。このウキウキする時間があるからこそ、何時間も車の運転ができるのです。それにしても、宗八ガレイにニシンにホッケ、どう考えても買い過ぎています。普段だったらとても食べ切れない量を買ったのは、ある秘密兵器があったからでした。

この日の朝、寿都漁港に向かう前にある場所に立ち寄っていました。昨年6月に100マイル地元食を始めて以降、ずっと我が家の命を支えてくれたある食材、その源に触れることができていたのです。たっぷり買った魚を一度に料理するアイディア、それはまた次のお話です。