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EPISODE #65
【お料理】ビルの谷間の酸っぱいタコ酢
北海道-道央エリア
8月
ついにお酢を手に入れた我が家。もう1品、必ず作りたかった料理が酢の物でした。酢の物に入れるのはタコと決まっていました。
それは、かつて東京で働いていた時代に通い詰めた、あるお店の思い出の味が忘れられなかったからです。苦しい時も少しだけ楽しかった時も、行けば必ず頼んだあの味。今回は、タコ酢と少しだけ昔の仕事のお話。
100マイル地元食ルールで初めて行った十勝旅行で幕別町の十勝ヒルズでの吉村さんとの出会いがありました。そして、十勝ヒルズオリジナルのお酢が手に入ったことで、3か月ぶりにドレッシングをかけたサラダを食べる事ができました。
今回は、とびきり美味しくて貴重なお酢を使ってもう1品。タコの酢の物を作りました。世の中には多種多様な食材を使った酢の物がありますが、私にとって酢の物と言えば、タコを使ったタコ酢一択です。
実は北海道は、ダントツ50%以上の国内シェアを誇るタコの大産地です。それを実感したのは2年前。近くの港で釣りをしていたら、偶然、仕掛けにかかったのが1mもある巨大なミズダコでした。水面まできて私と目が合うと、パッとしかけを離して悠々と逃げていきました。
今回使ったのは、先日の結婚記念日の日本海ロングドライブの際、厚田港朝市で購入したミズダコです。足1本が1kg、2本で1,000円。北海道は、タコ好きにはたまらないポテンシャルを秘めています。
ミズダコの足は、太すぎるので2cmぐらいの角切りにします。ザルに広げて熱湯を注ぎ、軽く火を通します。合わせるのはきゅうりだけが好みです。飾り切りのじゃばらきゅうりにするのが流儀です。酢が染み込んで美味しいんです。
お酢は、出汁と合わせた土佐酢を作ります。日高昆布と鮭節で濃い目にとった出汁、みりんの代わりの池田町ワイン城のビートのこころあわせ、十勝ヒルズのオリジナル酢の中でもクセが無いながいもの酢、それとお塩で、土佐酢の完成です。
ビニール袋に、タコ、きゅうり、もしあれば大葉やみょうがを刻んで入れ、土佐酢を入れて、よく揉みこみます。冷蔵庫で1時間ぐらいおけば、味がしみて食べられます。一晩おいた翌朝が、実は一番の食べ頃ですが。
タコ酢にこだわる理由があります。それは、東京でサラリーマンをやっていた時に通い詰めた新橋のお店で、必ず頼むメニューだったからです。新橋駅のSL広場の先、ビルの合間の烏森神社につながる露地の途中にある、茶漬鹿火矢(ちゃづけかびや)です。
小さな店ですが、行く度に中身が変わる刺身の盛り合わせも、1人前から造ってくれます。仕事に疲れてふらっと立ち寄った時、カウンターに座って頼むのは、まず、生ビールと刺身の盛り合わせ、それから、ぶり大根か玉子焼き。最後に絶品の鯛茶漬けを頼む前に、ビールの後の焼酎と合わせて必ず頼むのがタコ酢でした。
新入社員の頃から、日本中のスーパーに並ぶ大量の果物の輸入取引を担当していました。果物に触れながらの憧れの仕事かと思いきや、毎日のようにパソコン画面での作業と、膨大な量の輸入通関書類に埋もれる日々。少しずつ何かをすり減らしながら、耐える日々が続いていました。
そんな毎日の中で、都会のビルの谷間にある小さなお店で、ほんのちょっとだけ本当の自分に戻れる瞬間。そんな切り替えスイッチがタコ酢だったのかもしれません。もうあの生活に戻ることは無さそうだけど、今でもあの味だけは忘れずに覚えています。
ぼーっと思い出に浸りながら食べるタコ酢、やっぱり美味しい。タコの歯応えと味がしみたじゃばらきゅうり、出汁の風味とお酢の酸味もしっかりと調和しています。タコも2kgもあるし、毎日でも食べたいところです。
ですが、このタコ酢、お酢を使い過ぎる。1回作ると、150ml入りのお酢の瓶の1/3ぐらい無くなるんです。十勝ヒルズで大人買いしたお酢ももう半分をきりました。また十勝に買い物に行かなきゃいけません。
タコ酢(4人分)