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100年後も食べたいタコ料理

EPISODE #246

100年後も食べたいタコ料理

2020.9.10

お料理,おもてなし,水産ウィーク,シーズン2

巨大ミズダコ料理は丁寧な下処理から

 北海道苫前町(とままえちょう)の若きタコ漁師、小笠原宏一君と、東京を拠点に活躍する “魚食の伝道師” 青木宏樹君の力を借りて実現した、地元のミズダコ教室。札幌の都会に住む子供たちは、活きたタコと生の漁師に触れ大興奮です。この良い流れを受けて、私の100マイル地元食ルールでのミズダコ料理が始まりました。

 ミズダコは、大きいものだと50kgにもなりますが、この日のものは4~5㎏の小ぶりなものです。とは言っても、まな板からはみ出るほどの存在感で、慣れない私は、悪戦苦闘していました。この日、集まってくれた小学校低学年から幼稚園生の子供たちは、半分以上がタコを食べた経験がありません。食べやすい料理にするためには、ぬめりや臭み、それに硬さを取り除いてあげたいところです。

 まずは下処理からです。ぬめりと臭みは、生の状態でよーく塩もみすることで取り除けます。我が家にとってはとても貴重な地元の海の塩を、たっぷりとミズタコに振りかけます。大きなテーブルクロスでも手洗いするように、ボウルの中で15分ぐらい揉みます。ドロドロの濁ったぬめりをキレイに水道水で流します。次は、身を柔らかくする工程です。まな板の上のミズダコに布巾をかけたら、すりこ木でダンダンと叩きます。全身が強い筋肉でできているタコも、叩いて繊維をほぐすことで柔らかくなります。

 最後に、たっぷりのお湯で15分ほど下茹でします。一匹丸ごとは鍋に入らないので、頭と、半分ずつの足の計3回も茹でることになりました。でもこれでやっと下処理は完了です。ここまで来れば、巨大な北の海のモンスターを揉んで叩いて釜茹でにして、やっつけたようなものです。いい大人がキッチンで一人、冒険を終えた勇者のような達成感に浸っていました。

下茹でしたミズダコの足
下処理が終わったミズダコの足

一匹のタコを楽しみ尽くす大人の料理

 さっきまで活きていた特別なタコです。やっぱり刺身は食べてみたいところ。生のまま皮をむいた足、下茹でした皮付き足と、分厚い頭を、部位ごとにお造りにしてと青木君にお願いしました。豊洲市場でも働く彼にとっては、朝飯前のお願いです。大皿に並べられた山盛りのミズダコのお刺身。料理はこれだけでいいんじゃないかと思うほどのボリュームです。

 大人用にお酒に合う一品も欲しいなと、テレビのお料理コーナーで紹介されていた「シチリア風シーフードグリル」も作ることにしました。シーフードと言ってもミズダコだけ、シチリア風と言ってもオリーブオイルではなく米油の「北海道風ミズダコグリル」ですが。大きめに切ったタコと夏野菜を、米油、お酒、シークワーサー果汁(なぜ我が家に沖縄のシークワーサー果汁があるの?)と削ったチーズでマリネして、高温に熱したグリルパンで焼きます。じゅわーっと甘酸っぱい香りが立ち上ります。焼き目が付くまで焼いたらお皿に盛って、刻んだイタリアンパセリを振りかけて完成です。

ミズダコのシチリア風グリル

 大人用のもう一品。どうしても作りたかったのが、タコの内臓を使った “道具汁” です。お料理の時に出たタコの皮や足の先っぽを無駄なく使って、昆布といっしょに煮ると濃い桜色をした甘い香りの出汁が取れます。青木君が、解体ショーで丁寧に切り分けてくれた、心臓、エラ、胃袋、白子などの内臓を小さく切って入れ、さっと火を通したら、お酒とお塩でシンプルに味付けして完成です。これは、参加者全員が初めて食べるメニュー。どんな味なのか想像もつきません。

子供も食べやすいミズダコメニュー

 鮮度抜群のミズダコを前にして、私が食べたいメニューはいくらでも思いつきます。でも、子供に食べてもらうにはどうしたら良いでしょうか。港町にでも生まれない限り、小さいころからタコが好物な子は珍しいでしょう。初めて食べる子にもハードルが低いメニューと考えると、やはりあれしか思いつきません。タコ焼きです。みんなで楽しく作れて、子供が大好きなソース味のタコ焼きなら大丈夫でしょう。

 ママ友たちも持ち寄ってくれた分も合わせて3つのタコ焼き機で、200個は焼かないといけません。ここは宏一君にも手伝ってもらうことにしました。タコ漁で鍛えた太い腕をこの日はちまちまと使って、タコ焼きをひっくり返しています。都会のママ友たちに囲まれて、若い漁師も照れくさそうです。100マイル範囲内の食材で作られたソースは残念ながら見つけられませんでしたが、この日はゲストが主役の食卓です。大人しく間違いない美味しさの「おたふくソース」を買ってきました。

 育ち盛りの子供たちのためにもう一品、タコのうま味がたっぷりと沁み込んだタコ飯も作りました。道具汁のために取ったタコの出汁の余りを使います。研いだお米を土鍋に入れ出汁を吸わせます。炊く直前に酒と塩を入れ、1㎝角に切ったタコをお米の上にのせて炊くだけです。我が家の炊き込みご飯は、米1合につき塩3gが目安です。沸騰してら弱火で15分、火を消して蒸らして15分、青ネギを振りかけたら、混ぜて完成です。

ミズダコのタコ飯
ミズダコ出汁のタコ飯

100年後も開きたいタコパーティー

 地元のタコ漁師と一緒に作ったタコ料理を、都会の子供たちやママ友が一緒に食べている光景は、不思議と違和感のないものでした。職業や住む地域を置いておけば、みんな近い年代の同じ人間です。そこにはちょっとした非日常感がありますが、みんな自然体で過ごしています。お刺身は、生と茹でと部位で全く違う歯ごたえが楽しいし、シーフードグリルは焼いて活性化したうま味がじゅわっと染み出てたまりません。道具汁は、口にするのに少し勇気がいるみたいですが、上品なタコの出汁とコリコリの内臓が楽しめる意外な美味しさでした。

 宏一君は、苫前町のタコ漁師さんと協力して、地元の海にどれだけのタコがいるのか調べる取り組みを始めました。それは、これから先の将来にわたって、タコ漁が続けられるように資源を守るためです。我が家にとって、彼ら苫前の漁師との関係の中で、今後もずっと地元のタコが食べられることになります。ミズダコがつないでくれる地元の漁師と消費者の関係が、100年先の未来にも続いていたら素敵な事です。

 この日のタコパーティーの最後に、集まってくれた子供たちに質問をしました。

「初めてタコを食べられた子はいるかなー?」

「食べれた!」

と、たくさんの子が手を挙げてくれました。これは嬉しい。頑張って料理をした甲斐がありました。そんな中で1人の女の子が、誰よりも大きく楽しそうな声でこう言いました。

「食べれなかったー!!」

 この言葉が私の心を鷲掴みにしました。彼女は、食わず嫌いのタコに挑戦はできなかったけれど、今日の体験は本当に楽しかったのでしょう。地元のタコ漁師のお兄ちゃんと一緒に過ごした思い出は、彼女の人生の中で輝き続けます。そして、いつかタコを初めて口にする瞬間に、必ずその光景が甦るはずです。彼女の中に仕掛けられた美味しさのタイムマシーンです。地元の生産者と友人になることは、私たち消費者の食卓を美味しく楽しくしてくれます。100年後にも、こんな関係の魅力を知る消費者がいる限り、情熱に燃える若い漁師は、胸を張って海に出ていくことができるのですから。

タコパーティー集合写真

※ホームパーティーは、2019年6月に開催したものです。

※お料理のレシピは、「100マイル地元食ブログ」公式Instagram、公式Facebookページで公開していきます。ぜひフォローお願いします!

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