ついに訪れた歓喜の瞬間。繰り広げられる大迫力のサクラマス漁に足が震えます。地元の海と我が家のテーブルをつなぐ一本の道が確かに見えた、寿都湾の定置網漁への乗船体験

今回は、水産ウィークの第8話、寿都のサクラマス漁と、世界で一番嬉しいお土産のお話です。

 

サクラマス漁が始まった!

タモ網を持って船べりに立つ漁師、ハサミを持って座って待つ漁師。眼前に起こる全てが私にとって初めてのこと。次に何が起こるのかがわかりません。一瞬の間を置いて、何の合図も無いまま、驚くほど静かに熱狂の漁が始まりました。

立っている漁師が、箱網の中でひしめき合う魚をタモ網ですくい上げていきます。その魚を、座っている漁師さんが受け取り、ハサミでエラを切って血抜きをします。船倉にある海水で満たされた水槽に、50cm以上ある銀色の魚体が次々に水槽に投げ込まれていきます。

タモ網ですくい上げられた銀色の魚体

「あれ、サクラマスです!」エンジンと風の音にかき消されないよう、大串さんが大きな声で教えてくれます。

この春、我が家の食卓に何度も並んだ寿都のサクラマスが、今、目の前で海から揚げられています。

「これだ、これを見に来たんだ!」夢にまで見た瞬間を前に、踏ん張って身体を固定している足が震えます。

 

地元の海と我が家の食卓をつなぐ最後のピース

揚がり続けるサクラマス。時折混じる、ニシン、イワシ、カレイにヤリイカ。船上に揚がった魚たちは最後の瞬間まで生き抜こうと暴れます。網の中で運命を待つ魚、おこぼれに与ろうと飛び交う海鳥、慌ただしく動き回る漁師さんたち、その場にいる全ての生命が輝きを増す瞬間です。

網起こし作業
漁が始まるとすぐに船上は魚であふれ返った

それは私にとって、また別の意味がある瞬間でした。命の輝きにあふれた地元の海から、我が家の食卓へと至る一本の道。その中で、今まで体験することができなかった、欠けていた最後のピースがはまった瞬間でもあったのです。

私たちは何を食べているのか。どこで育ち、誰が食べ物に変え、どう私たちの手に届いたのか。目の前に食べ物が並んでいるのが当り前だと、半ば無意識の内に信じていた1年前の私たち。今では、全ての食べ物がたどる一本の道が、はっきりと見えています。

100マイル内の寿都の海と、我が家の食卓をつなぐ「Ocean to Table」が完成した瞬間でした。

 

生き物から食べ物に変わったサクラマス
朝陽
寿都湾に降り注ぐ温かな朝陽

湾から切り立った山の上から温かい朝陽が差す頃になると、船上を支配していた緊張は和らぎ、漁師さんたちの表情も緩みます。それが、漁の終わりを告げる合図でした。この日、1時間ほどの間に2つの定置網の網起こしをしました。水槽は、血が抜けきったサクラマスでいっぱいです。

血抜き水槽
血抜きのための水槽がサクラマスでいっぱいになる

漁港に戻ると、漁師さんたちはすぐに次の作業に取り掛かります。血抜きをしたマスをキレイに洗い、岸壁に揚げると、用意しておいた海水シャーベットに入れて冷やします。漁港に立つ作業場に運び込み、並べられた発泡スチロール箱に氷ととも詰めていきます。

海水シャーベットの中のサクラマス
海水シャーベットで冷やしこまれたサクラマス

直前まで生きていたマスは、血と体温を一気に奪われ、それぞれが持つ美味しさを内に秘めたままで、食べ物としての魚に変わっていきました。大きなトラックに積み込まれ、出荷されていく魚たち。この魚を食べられる消費者は本当に幸せ者です。

 

思いがけないお土産

出荷作業を遠巻きに見ていた時、作業の中心にいた1人の方が、大串さんと何やら話し始めました。その方は、マルホン小西漁業の小西社長でした。小西さんは、発泡スチロール箱を水から運んで私たちの前に並べました。

発泡スチロール箱
小西社長が持って来てくれた発泡スチロール箱

中には、獲れたばかりの3kgはあるサクラマスが入っていました。それは、思いがけないお土産。青木君と私が、この時、世界で一番欲しかったお土産でした。漁を体験させてくれただけでなく、獲ったばかりのサクラマスまでお土産に持たせてくれる。なんて優しいのでしょうか。

小西社長、船頭さん、漁師さんたち、そして大串さん、寿都町の豊かな海と地元の魚への自信に裏打ちされた包み込むような優しさにひたりきった朝。夢のようであって、しかし鮮烈な記憶として刻まれた、3日間の水産ウィークの最後のイベントになりました。