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【水産ウィーク×ストーリー】海に戻す 海が輝く

EPISODE #202

【水産ウィーク×ストーリー】海に戻す 海が輝く

2018.6.6

水産ウィーク,ストーリー

私たち消費者が立つ場所は、大都会の中の孤独な暗闇でしょうか。それとも、豊かな海と友人に囲まれた温かい大地でしょうか。地元の魚と海、そこで行われるプロの仕事に触れた水産ウィークが終わろうとしています。

今回は、水産ウィークのおまけの1話、捨てずに戻すことの意味のお話です。

 

海を守るため肥料を撒く

寿都湾でのサクラマス漁が終わり、陸に上がった私たち。青木君のフライトまでの少しの間だけ、寿都漁港に立ち寄ることにしました。「面白い物が見られますよ。」という、寿都町役場の大串さんのお誘いがあったからです。朝の漁を終えた漁船が岸壁に並び、何か茶色い塊を積み込んでいます。

「これ、海に撒く堆肥です。」

大量の堆肥

漁船に積み込まれる大量の堆肥

聞けば、近年、寿都でも生き物の住処となる海藻が無くなる「磯焼け」が深刻な問題になっていて、それを防ぐために堆肥を海に撒くと言うのです。「磯焼け」の原因は、海水温の上昇や、海藻を食べてしまう生物の増加など、様々な要因が絡みあっていて、まだ分かっていないことが多くあります。

でも、人間が海から魚や海藻などを取り続けることで、海中の栄養分が失われ、痩せた砂漠のようになってしまうことは、どうやら確かなようです。

寿都では、生き物が豊富な海を維持するために、地元の加工場から出る魚の骨や内臓などのカスを堆肥にして、海に戻す取り組みを続けています。海に撒かれた堆肥からゆっくりと栄養がしみ出すことで、海藻が育ち次世代の魚のゆりかごになります。

 

捨てずに戻せば海が輝く

「廃棄も消費のうち」

いつまで経っても頭から離れない言葉があります。以前、東京で農産物を売る仕事をしていた時によく耳にした言葉です。食べ物を買ったお客さんが余らして捨てたとしても、売った側から見れば、その分たくさん売れたのだから良いことになる、そんな意味です。

すべてのお客さんが今の倍の量の食べ物を買って、余った分を捨ててしまったとしても、売り手は大儲けできます。捨てられるとわかっていながら余計に売る。捨てられた食べ物はゴミになり、燃やされて土に埋められてお終いです。それが自分の仕事だと信じていたあの頃、この行為の愚かさから目を背けていたのかもしれません

寿都に話を戻せば、たとえ人間にとっては不必要な物でも、海にとっては大切な物です。獲り過ぎないよう気を付ける。余計な物は海に戻す。地元の海を豊かに保つことは、ずっと美味しい魚を食べ続けるために不可欠です。海に戻さずに捨ててしまえば、地元の海と我が家の食卓の未来を奪ってしまうかもしれません。

 

血抜きは誇り高き漁師の仕事

思えば、丸本丸の上で行われていた血抜きも「海に戻す」作業だったのかもしれません。魚が嫌いになる理由に生臭さがあります。特にシャケやマスの仲間は独特の臭いがあって、正直なところ、私も以前は苦手でした。生臭さの原因は血です。

丸本丸では、獲ってすぐにサクラマスがまだ生きている内に、エラの付け根の脊髄をハサミで切って、水槽に溜めた海水の中で血を抜いています。わざわざ普通の定置網漁の倍の人手をかけて。そして、抜かれた血は、そのまま寿都の海に戻されます。

丸本丸の船上活締め

手作業で1匹ずつエラを切っていく

私たち消費者にとってはマスの味を落としてしまう血は不要です。それなら、寿都の地元の海にいる間に、血を抜いて海に戻してしまおう。その血が、また次世代の豊かな命を育みます。獲った命の価値を最大限に高め、また次の命を養う。それが丸本丸が手間をかけてやっている作業です。

 

水産ウィークが教えてくれたこと

私は地元の海の豊かさを知っています。地元の漁師さんの気高い誇りと命への向き合い方を知っています。私は地元の海で獲れた魚を、骨の1本まで余さず味わいたいと思います。地元の海の魚を私は捨てられません。

便利な都会に住んでいて、今いる場所から一歩も動かなければ、自らが命と人の想いの循環の中にいることに気が付かないかもしれません。私たちが都会で買う魚にも、育った海の恵みが凝縮されていて、漁師さんの想いが詰め込まれているはずです。

でも、物だけが受け渡される便利なリレーの最後で待っているだけでは、そんなこと、知る由もありません。

寿都町弁慶岬

地元の海から始まる命と想いの循環

「外に出よう。海に行こう。」

地元の海には、私たち消費者をワクワクさせてくれる美味しい魚、大好きな友人たち、海よりも深いストーリーが待っています。青木君と走り回った2度目の水産ウィークは、また私たちに地元の海の楽しみ方を教えてくれたのでした。

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