「次は漁船に乗りたい。」

友人の突拍子もない願いに呆れながらも、ひょっとして、という小さな期待が芽生えていました。太平洋の幻の深海魚、北海道の歴史を作った魚、そして、海鳥と待ち望んだ待望の魚たち。自然の気まぐれとプロの仕事に触れた、大揺れの3日間が始まりました。

今回は、昨年6月に続く、2度目の水産ウィークのお話です。

 

友を招いた2度目の水産ウィーク

昨年6月に始めた1年間の100マイル地元食の挑戦。関東に住む高校からの友人、青木君が1度目の水産ウィークで北海道に来てくれたのは、まだ挑戦開始直後の6月でした。あれから10カ月が経ち、我が家の食卓は大きく変わりました。今なら、青木君もきっとびっくりするはずです。

水産ウィーク成果
1度目の水産ウィークの成果のほんの一部

日本海側の寿都町の地魚直売所「すっつ浜直市場」太平洋側の地魚が買えるコンシェルジュがいる魚屋さん「高槻商店」、他にも多くの地元の海の幸が買えるお店に出会いました。我が家の食卓には、見違えるほど豊かな魚介類が並ぶようになりました。

築地市場で経験を積みながら、魚食をより身近にするための食育指導を続けている青木君。魚について言えば、彼の方が数段 “変態” かもしれません。例のごとく、北海道に来なよという誘いに二つ返事でOKを出してきました。

「どうせ行くなら、今度は漁船に乗りたい。」一体、彼は何を言っているのでしょうか。ただの消費者にとって、そんなこと簡単にできるはずがありません。

 

頼れる男 寿都町役場の大串さん

青木君は、これまでも知り合いの本州の漁師さんに頼み込んで漁船に乗せてもらうことがあったそうです。海が変われば、見られる魚が変わります。「絶対に乗りたい。」彼も本気です。でも、私には船に乗せてとお願いできる漁師さんの知人ががいませんでした。

それならばと彼が相談したのはあの男、1度目の水産ウィークでも大活躍してくれた寿都町役場産業振興課の大串さんでした。寿都漁港のセリを見せてくれて札幌市中央卸売市場を見学させてくれて長男(当時5)が待ち望んだ地元のマグロまで探してくれたあの男です。私はドキドキしながら、大串さんと青木君のメッセージ交換を見守っていました。

青木君と大串さん
昨年の水産ウィークでの青木君(左)と大串さん(右)

「漁船、乗せてくれるって!」力が抜けるほどすぐに手配してくれました。大串さんはやっぱりすごい男です。漁船に乗れるのは、青木君の3日間の滞在の2日目になりました。これは水産ウィークpart2の目玉になる。いつの間にか、私も期待に胸を躍らせていました。

 

初めての Ocean to Table

青木君に比べれば落ち着いてですが、私は私で楽しみにしていた理由がありました。我が家の食べている魚はまだ「Ocean to Table」ではなかった、からです。

最近ではよく、「Farm to Table」という言葉を聞くようになりました。「農場から食卓に直接届く」野菜や肉という意味です。アメリカのカリフォルニアなどで2000年代に起きた、新鮮で安全な地元の食べ物を提供するレストランや学校給食の新しいコンセプトです。

我が家で食べている野菜のいくつかは、友人の農家さんの農場から直接買ったものです。「友人たちが作ってくれた食材だけのラストディナー」を目指す想いにもつながりますが、いつかはすべての野菜とお肉を「Farm to Table」で買いたいと思うほど、大好きな考え方です。

でも魚は違いました。自分で釣った魚を除いては、まだ1匹も「Ocean to Table」、つまり「海から食卓に直接届いた」魚を食べていません。漁船に乗ることができれば、海から揚がった魚を買わせてもらえるかもしれない。我が家にとっては特別な意味のある初めての魚になります。

※上記「Farm to Table」のリンクは英語版Wikipedeiaです。日本語版の解説はまだありませんでした。(2018年5月14日時点)

 

春の嵐がぜんぶ吹き飛ばす

我が家の食卓をより豊かにするためにも重要になってきた2度目の水産ウィーク。でも、そんなに簡単なものではありませんでした。青木君が北海道に来る日が近づくと、気がかりなことが出てきたのです。それは北海道らしい春の荒れる天候です。台風並みの雨と風の予報でした。

彼が乗った飛行機は、なんとか新千歳空港に着陸できました。でも、冷たい雨が混じった強烈な風が吹きつけています。彼を拾ってまず真っ直ぐに太平洋を目指しました。眼前に広がった白波が打ち寄せる海。これでは漁師さんも数日は船を出せないのでは?

大荒れの太平洋
春の嵐で大荒れの太平洋

「明日の出漁は絶望的になりました。」不安になり始めた私たちにとどめを刺したのは、大串さんからの速報メッセージでした。もしかすると、水産ウィークなのに1匹も魚が買えないかもしれない。

「肉でも買いに行く?」そんな冗談を言いながら、2人を乗せた車はとりあえず日高の海を目指していました。