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EPISODE #86
【お料理】厚田鮭のちゃんちゃん焼き
厚田港の朝市で買えた立派なメス鮭を持ち帰って、両親のためにお料理することになりました。我が家にある調味料で作れる、ぴったりな鮭の名物料理に挑戦しました。
今年も帰ってきてくれた旬の鮭を豪快に料理すれば、美味しくないはずがありません。今回は、両親に振舞ったちゃんちゃん焼きの話。
札幌の西側に並ぶ、中心部を見下ろす山々の中腹に我が家はあります。子供3人の5人家族がゆったりと過ごせるように、そして私のオフィスも1部屋確保するために、大きめのメゾネットタイプのマンションを借りています。年季が入った建物ですが、広いキッチンは挑戦の場として気に入っています。
長男が生まれた頃にかった木製のダイニングテーブルは、ゲストが来た時のために板を継ぎ足して大きくできます。家族5人と両親2人が囲む食卓は、少し狭いですが賑やかです。この日、皆の中心にあったのは、北海道の名物料理、鮭のちゃんちゃん焼きでした。
ちゃんちゃん焼きの語源は諸説あるようですが、「お父ちゃんが焼いてくれるから」という説もあります。普段から料理は何もしない父ちゃんでも作れる、簡単なご馳走メニューということでしょうか。こんなイベントの日にはぴったりです。
100マイル地元食の挑戦を始めてから、イナダ、ヒラメ、アブラコ(アイナメの北海道での呼び方)、そして鮭と、大きな魚を捌くことが増えました。ホームセンターで買った下から2番目に安い出刃包丁が大活躍しています。三枚おろしも板についてきました。
大きくて深めのフライパンに、米油をちょっととバターを入れて火をつけ、しっかり溶かします。大きな切り身にした厚田の白鮭を皮目から焼きます。焼き色がついたらすぐひっくり返し、鮭の周りを囲むように、ざっくり切ったキャベツ、玉ねぎ、にんじんを入れます。
ポイントは味噌ダレです。ルスツのよしかわファームさんの大豆、北竜町の米糀、岩内町の海洋深層水で作った星の塩で仕込んだ、自慢の自家製味噌をたっぷり使います。他にも、伊達市のほのぼの印の砂糖と、十勝の池田町にあるワイン城のビート(砂糖大根)で作ったリキュール、ビートのこころあわせをみりんの代わりに入れて、よく混ぜます。
7割ぐらい火が通ったフライパンの鮭と野菜に、ドバーっと回しかけたら蓋をして蒸し焼きにします。焼き過ぎて硬くならないように頃合いを見極めたら、火を止めて完成。フライパンのまま食卓の真ん中に置くと、我が家の鮭祭りのスタートです。
大きな切り身をそれぞれの皿に取り分けます。箸を入れると、中はちょうど良いピンク色です。初めての挑戦にしては、絶妙な焼き加減です。口に運ぶと、味噌と鮭の香りが広がります。白鮭の身はふっくら、ふんわりして柔らかです。
輸入や養殖の紅鮭や銀鮭と違い、白鮭は脂は少なくあっさりとしています。その分、鱒本来の白身の味に近く、味噌ダレの甘味とコクをまとって上品です。鮭のエキスが染み込んだ野菜もまた旨い。これだけでどんぶり飯が食べられます。
この北海道の旬の味には、両親も驚いた様子。どんどん箸が進みます。地元の漁港で買った鮭が、同じく地元の食材たちと出会って、ご馳走になって味わえる。息子家族が夢中になっている100マイル地元食を身をもって体験してくれました。
そもそも両親から見れば、それなりに安定したサラリーマンの職を投げうって、実家から遠い札幌に移住し、おかしな食生活に家族を巻き込んでいる、身勝手な息子に映っていたかもしれません。今回の旅行で、私たち夫婦の考えを理解してほしかった。
この100マイル地元食が、現代の都会で生きる普通の消費者が感じている退屈さや違和感に、もう一つの選択肢を与えるものだとしたら。いつか、100マイル地元食のルールに賛同してくれる都会人が増えて、生産者も消費者も、あとちょっとだけ美味しく幸せになれるとしたら。
多くを語らない息子と両親の間で、ちゃんちゃん焼きが代わりに伝えてくれたかもしれません。
実は、もう1つ語っていないことがありました。メス鮭のお腹にたっぷりと入っていた筋子のことです。イクラが好きだったはずの父には教えませんでした。だって、私と妻が食べる分が無くなっちゃうから。味付けするのに何日かかかるから、しょうがないですよね。
鮭のちゃんちゃん焼き(4人分)