©100マイル地元食
EPISODE #85
【食材調達】鮭と息子が戻ってくる理由
忙しい秋だと言うのに、孫に会いに両親が遊びに来ました。しかも、100マイル地元食ルールでの滞在です。やるからには、しっかりと楽しんで体験してもらうしかありません。
今回は、鮭と自分の人生を重ねた、厚田での鮭の買い出しのお話。
10月の3連休、横浜に住む私の両親が、長男(6)と長女(3)、それに5カ月になる次男(0)と遊ぶために旅行に来ました。季節は秋も終盤の兆し。刻一刻と手に入る食材が減っていく忙しい中、嵐のような3日間が始まりました。
我が家が、6月に100マイル地元食生活の挑戦を始めてから、両親は何度か遊びに来ていました。ですが、外食が好きな両親、100マイル地元食には参加していませんでした。今回の旅行では、しっかりと体験してもらうことにしました。
まず食べて欲しかったのは、秋味こと、産卵のために北海道に帰ってきた鮭でした。我が家も一足先に、厚田ふるさとあきあじ祭りで鮭を1本買っていたものの、鮭おにぎり用の切り身にして冷凍してしまったので、ほとんど食べていませんでした。
昼前に札幌駅で両親と合流し、目指したのは札幌北側の日本海。再び、厚田漁港に向かったのでした。目当ての厚田港朝市は、朝の漁船の水揚げから始まり、午後2時まで続きます。札幌駅から厚田までは車で1時間半。急がないと終わってしまいます。
前回の厚田買い出し同様、雲行きが怪しくなってきました。ぽつぽつと降り出す雨。すっきりしない灰色の空は、この地域に冬が近づいている兆しでした。到着した朝市。土曜ですが、もうすぐ2時。開いている店は2~3軒でした。ぎりぎり間に合ったようです。
その内、鮭を売っていたのは1軒。大きな箱に、60cm以上もある大物たちがメスとオスに分けられて並んでいました。オスは4kgで3千円ぐらい。メスはというと、同じ大きさで5~6千円。お腹の中の筋子の価値で、オスの2倍も高いのでした。
オスも、せっかく帰ってきたのにこの仕打ちは可哀想です。同じオスとして同情しつつも、買うのはもちろんメスです。
厚田は定置網漁をしていて、鮭だけじゃなく、他にもいろいろな魚が獲れる。お店の威勢の良いお母さんが教えてくれました。お腹が丸々と膨れたメスの鮭、2枚で1,000円のヒラメ、大きなカスベ(エイ)、それにザルに山盛りの黒ソイ。クーラーボックス一杯に買い込みました。
ここで魚が買えなかったら、もっと北上して他の漁港を探し回るつもりでした。ですが、厚田だけで十分すぎる量の魚が手に入りました。雲間から海面に光が差す、つかの間の景色を横目で見ながら、帰路につきます。
思えば、両親とゆっくり旅行をするのは久しぶりでした。男なんて、もの心ついた頃から外に居場所があって、少しずつ家から遠ざかるものです。姉と妹に挟まれていた私は、特にそうだったのかもしれません。
私が高校、大学と進むにつれて、父親と過ごす機会は減っていきました。父は、スーパーマーケットの会社で経験を積み、独立してフリーランスとして仕事をしていました。忙しく仕事に打ち込む父と、部活と遊びと飛び回る息子の接点はそれほど多くありませんでした。
父に、憧れていたわけでも、尊敬のあまり真似してしまったわけでも決してありませんが、我が家の人生は、今のところ共通点が多くあります。社会に出た時、選んだのは貿易商社で同じ流通業。子供は3人。そして、独立してフリーランスの道を選びました。
鮭は、育った川の水の味を覚えていて、海に降りて大きく育ってからも、再び同じ川に戻ってくるらしい。もしかすると私も、両親が築いた家庭の空気をどこかで覚えていて、今の人生を選んでいるのかもしれない。たぶん、そんなことはないでしょう。
クーラーボックスの中の鮭の人生を想いながら、全員で寝てしまった3世代を乗せて、ゆっくりと来た道を引き返すのでした。