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EPISODE #211
【キャンピングカー旅×食材調達】士別のサフォークラム
生産者さんを巡る、100マイル地元食ルールのキャンピングカー旅行2日目。午後に訪れたのは、我が家にとって初めての食材となる羊肉の聖地、士別市(しべつし)でした。町と羊に愛された男との出会いが、一発逆転の食材調達に繋がりました。
今回は、キャンピングカー旅編の5話目、士別の若き羊飼いとサフォークラムのお話です。
北海道でジンギスカンとして愛される羊肉は、実は99%以上がオーストラリアやニュージーランドからの輸入品です。国産の大半が北海道産とは言え、輸入と国産を合わせた全国の消費量で見れば、北海道産羊肉は0.5%にすぎない希少な食材です。
この日、訪れた士別市は、我が家がある札幌から北北東に96マイル(154km)に位置する町です。食肉に適したサフォーク種の羊の飼育が盛んで、「サフォークランド士別」とPRして町おこしをしています。
士別駅で待っていてくれたのは、「士別市地域おこし協力隊」の加藤さんです。「地域おこし協力隊」とは、市町村が、都市部から移住してくれる人材を数年間支援し、起業を目指して活動してもらうことで町おこしをするという制度です。加藤さんは、前の職業で身に付けた羊飼育のノウハウを活かして、士別で羊飼いになることを決意し協力隊になったそうです。
数カ月前に偶然知り合った加藤さんは、士別の羊を紹介して欲しいという私からのしつこいお願いに、士別の魅力を知ってもらう機会になるならと、この日のガイドを引き受けてくれたのでした。
最初に案内してくれたのは「かわにしの丘しずお農場」でした。羊舎の中には、顔が黒くモコモコの毛に包まれた羊たちがのびのびと草をはんでいます。これがサフォークでした。加藤さんが、この愛らしい羊についてたくさん教えてくれました。
イギリス生まれのこの品種は、成長が早くて筋肉質、柔らかくてジューシーと食べるには最適なのだそうです。繁殖期は秋で、毎年2月頃に仔羊が生まれます。牧場を訪れた5月上旬は、まだ生後3~4カ月。あどけない黒い顔とプリプリのお尻の仔羊たちは弾むように走り回っています。
あと数カ月もすれば、大きくなった仔羊からラムとして出荷されていきます。ちなみにラムは生後12カ月までの仔羊のこと。士別では、その年に生まれた仔羊はほぼすべてラムのうちに出荷してしまうそうです。
ということはつまり、今は食べられる羊がいないオフシーズンです。もしかして、ここまで来たのに羊肉が買えないかもしれない。加藤さんの説明を聞くうちに不安になってきました。
お肉のことばかり考えている私たちを、加藤さんは次の見学場所「羊と雲の丘」に連れて行きました。士別の町を見下ろす丘には、あらゆる種類の羊が見られる「世界のめん羊館」や、羊毛の工芸品が買える「くるるん」があり、丘の頂上には士別のサフォークが食べられるレストラン「羊飼いの家」がありました。
何が始まるのか分からないまま、加藤さんに導かれてレストランに入っていきます。加藤さんがお店の方に声をかけると、奥から大きな包みを持った男性が出てきました。「羊飼いの家」の谷内料理長が手にしていたのは、紛れもないサフォークの塊肉でした。
加藤さんは、オフシーズンの羊肉を探すために士別の隅々にまで声をかけ、おそらく最後に残った去年のラムの塊肉をここ「羊飼いの家」で見つけてくれていたのでした。
「うちに残っていた最後の1つですよ。」
谷内さんが手渡してくれたサフォークラムのモモ塊肉3kg。熱心な人柄で士別の皆さんに信頼されている加藤さんだからこそ、見つけられた貴重な羊肉でした。
最後に立ち寄った「羊と雲の丘」の敷地内にある牧場。ここでも元気に育つサフォークの仔羊を見ることができました。加藤さんが、ここで羊を育てている鈴木さんと、数日後の毛刈り作業の手伝いの話をしています。
加藤さんも、あと1、2年もすれば、ご自分の牧場を持つことになります。羊の魅力に惹きつけられた人たちが、この地に根付き、また次の世代の羊を育てていきます。数年後、加藤さんが育てるはずの最初のサフォークを買わせてもらう約束をして、士別を後にすることにしました。
それにしてもやはり士別のサフォークは希少でした。今手にしている3kgの塊を食べてしまえば、次はしばらく買えないかもしれません。そんな私たちの話を聞いて、鈴木さんが言いました。
「電話くれれば、半身から発送しますよ。」
思いがけない提案。計らずして我が家の羊肉の調達ルートがつながりました。それにしても、羊の半身とはどれほど大きいのでしょうか?嬉しい戸惑いに包まれながら、大きな成果を冷蔵庫にしまい込んで、キャンピングカーはまた走り出しました。