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EPISODE #92
【食材調達】生き物が食べ物に変わる瞬間
前回、緊張を隠しつつ、自らの手で絞めた鶏。それでもまだ、食べ物としての鶏肉にするには、いくつもの工程が残っていました。
真剣に、そして丁寧に作業を進めるうち、初めて抱く感情に気が付きました。今回は、前後半の後編、生き物の鶏が、食べ物の鶏肉になるまでのお話。
首の脇にある血管を切り、逆さに吊るしておくことで、鶏はすぐに血を失い、絶命します。ここまでが、生きていた鶏を絞めるための作業。生き物から食べ物へは、ある瞬間に一気に変わるのではなく、丁寧な手作業によって徐々に変わっていきます。
焚火で温めた大きな鍋の湯にどっぷりと浸けて、羽を抜けやすくします。60~70℃に1分間。この温度であれば、肉にまで火が通ることはありません。1分後に引き上げて、手で羽をむしっていきます。ブチブチと簡単に抜けます。
裏側や足の付け根に細い毛のような羽が残りやすいので、ガスバーナーで炙って焼き切ります。ここからは、丸裸になった鶏を、包丁を使って解体していきます。まずは頭と足を切り離します。足は食べられる部位なので別にとっておきます。
はるきちオーガニックファームの鶏は、卵を産むために育てられているため、肉は多くありません。その代わりに、栄養豊富な餌を食べて健康なため、内臓が大きく発達しています。首側、尻側を開き、取り出した内臓は、大きく、そしてきれいな色をしていました。
心臓(ハツ)、肝臓(レバー)、砂肝、成長中の玉子の黄身(きんかん)は、食べられる内臓、つまり鶏モツなので、大切に取り分けておきます。砂肝は、文字通り、食べた餌を磨り潰すために砂が入っていますので、切り開いて中身を捨てておきます。
最後に、手羽、モモ肉、胸肉を丁寧に切り取っていきます。骨に身が残らないように包丁を入れていきますが、これが難しい。どこにどんな骨があるか、理解していなければ、どこを切っていいのかわかりません。しかし、ここまでくれば、確実に食べ物としての鶏肉です。
初めに生きた鶏を受け取ったときから、各部位に切り分けるまで、全ての作業を自らの手で体験しました。初めに抱いた時、生き物の温もりを感じました。正直なところ、可哀想だと思いました。そして、緊張しながらの絞めるという行為。それからの解体作業。
生き物から、食べ物に近づいていくうちに、次第に、これまでになかった感情を抱いていることに気が付きました。強引に表現するなら、愛おしい、でしょうか。可哀想でも、怖いでもなく、自らの手で食べ物になった鶏を愛おしいと感じていたのです。
この鶏肉を早く食べたい。そして、大切に味わいたい。鶏を絞める体験をしたことで、鶏が食べられなくなる人がいるという話を聞いたことがありました。ですが、私はちょっと違いました。生き物から食べ物につながる、空白の瞬間が埋まったことで、より鶏肉が好きになったように感じました。
鶏を絞める作業は、想像以上に大変でした。我が家が食べる鶏を、全て私の手で絞めることはできません。ですが、この作業を知った上で、信頼できる方にお願いすることはできます。体験することで初めて感じた、鶏肉を愛おしいと感じる気持ちを持ちながら、日々の鶏肉を食べる。これだけで、いつもより美味しく、そして大切に鶏肉が食べられるはずです。
ボランティア全員が、自分が絞めた分の鶏肉を持ち帰りました。我が家に帰ってすぐに、特に鮮度が重要なモツを、丁寧に下処理をしました。鶏の足、いわゆるモミジも皮を剥いて綺麗にしておきます。我が家の冷凍庫で急速冷凍し、新鮮なままで、いつか料理になる日を待っています。
今まで当たり前だった、食べ物としての鶏肉。それがどこから来るのか掘り下げた1日。そこには、全ての食べ物と同じ、生き物としての鶏がいました。地元の生き物が、食べ物として口に入るまでを、自らの五感で体験する。
100マイル地元食の大切なテーマがまた1つ見つかったような気がしました。