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【食材調達】自らの手で感じた親鶏の温もり

EPISODE #91

【食材調達】自らの手で感じた親鶏の温もり

2017.10.18

食材調達

この日、1人で家を出た私は緊張していました。我が家で食べている鶏肉がどこから来るのか、私自身の手と目で確かめに行くためでした。

100マイル地元食を始めたことによって、初めて考えるようになった、肉の生まれる場所。今回は、生きた鶏を絞めた体験をご紹介します。前後編の前編です。

初めての鶏を絞める体験

いつもより早く目が覚めた朝、落ち着きません。家庭菜園で農作業をする時の格好で、1人家を出ました。向かったのは、以前、友人の後藤さん夫妻と一緒に野菜を買いに行った石狩市のはるきちオーガニックファームさんでした。

卵を2年間産んでくれた親鶏は、次第に産卵率が落ちるので、若い鶏と入れ替えるために絞める必要があります。この日は、ボランティアとしてお手伝いさせていただけることになりました。「絞める」とは、生きた鶏をと畜して肉にすることです。もちろん初めての経験です。

都合がつかなかった後藤さんは参加できず、妻と子供を連れてくるわけにもいかず、私1人だけで参加することになりました。命をいただいて、お肉にするという行為は、怖くはないか?受け入れられるのか?正直、不安でした。

お肉だけに存在する空白の瞬間

お肉はお肉屋さんやスーパーで買うもの。無機質なプラスチックトレーにのって、すぐに食べられる状態。血でさえも見ることはありません。ですが、私たちが食べている肉は、例外なく生きていた時があったはずです。この2つの時を隔てている行為を見ることはありません。

100マイル地元食の挑戦を続ける内に、野菜や豆、魚も、生産者さんから直接買うことができるようになりました。それは全て、まだ生きているか、少し前まで生きていた食べ物です。そこに空白の瞬間はありませんでした。

食べ物を育ててくれた生産者さんに会いたい。直接受け取った食べ物を食べたい。だからこそ、自分の足で会いに行ける、地元にこだわった食生活を追求する。それは肉であっても例外ではありませんでした。目的地に近づくにつれ、不思議と覚悟は決まっていきました。

穏やかな親鶏に揺れる心

はるきちオーガニックファーム直売所の裏手の集合場所には、徐々に人が集まってきました。こちらの農家さんは、人手が必要な作業の日にボランティアに手伝ってもらいます。北海道大学の農業サークルAgeesの皆さん、東京のサラリーマン、以前こちらで働いていた方、食に興味がある方、様々な方たちが参加しました。

作業手順を確認した後、鶏舎の前に移動しました。はるきちオーガニックファームの小林さん自ら、この日、絞める鶏を選んで渡してくれます。大切に両手で受け取った親鶏は、意外なほどに大人しく、静かに落ち着いています。

日ごろから、愛情をもって育てられているからこそ、人間を信頼している。そう感じました。そして温かい。当たり前ですが、生き物だということを痛感します。魚を絞めることはありますが、魚は冷たい。肌で触れて感じたこの違いで、また少しだけ動揺します。

最後の瞬間 手と足が震える

飛んで逃げていかないように、羽を後ろで交差し、足をヒモで縛ります。それでもまだ大人しい鶏たちを、次の場所に運んでいきます。この後の手順は、参加していた北海道大学で畜産を学ぶ学生さんが素人の私にも丁寧に教えてくれました。

教えてもらったままに、足で羽を押え、左手で鶏が安心するように目隠しをして、右手で頸動脈を切ります。足を縛ったヒモで逆さに吊るし、身の質を落とす原因になる血を抜きます。一連のこの行為の間中、私の手と足は震えていました。

最後の瞬間まで私に身を委ねていた親鶏。それは、残酷な行為というより、人間と鶏との信頼関係があって初めて成立する、厳かな行為のように感じました。人間の理屈ばかりで身勝手かもしれませんが、体験した者にしか理解できない、素直な感覚でした。

...次回、後編に続きます。

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