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EPISODE #72
【家庭菜園】畑で育つジャガイモと子供たち
札幌は実りの秋。農家さんが育ててきた作物が収穫の時を迎えています。家庭菜園1年生の我が家でも、例外ではありません。
雪解けとともに原野を切り開き畑を作り、家族で種イモを植え、夏の間ずっと育ててきました。それがまた家族で収穫できる喜びは格別です。
今回は、家庭菜園でのジャガイモ作りと、そこで育った子供たちの話。
初めての家庭菜園は、何もわからないまま始まりました。野菜作りの大先輩、淳一さんにお借りしたのは、畑じゃなくて原野でした。笹の太い根っこを引き剥がして見えたのは、真っ黒いミミズたっぷりの肥沃な土でした。
堆肥を入れて何度も耕し、お義父さんと息子(当時5)の力を借りて、日陰を作っていたヤチダモの木を切り倒し、排水の溝を掘り、やっと畑と呼べる状態になりました。デスクワークでいつの間にか鈍っていた36歳の都会人には、なかなかしんどい作業でした。
でもそれ以上に、土に触れ、収穫の時を想いながら作業を楽しんでいる。自分の中の意外な一面と向き合っていました。ここからは、この体験を子供たちとも共有したい。子供たちが大好きなジャガイモを植えることにしました。
ホームセンターで何もわからず買った種イモは3種類、キタアカリ、ベニアカリ、シャドークイーンでした。皮が、黄色、薄紅色、紫色の3色できれいだから。子供たちが選んだのはそんな理由でした。陽に当てて、芽が出るのを待って準備しました。
長男、長女(当時2)、次男が生まれる直前の妻の応援に来てくれていた母と植えます。私が掘った浅い溝に、子供たちが種イモを並べます。薄く土をかけたらもうお終い。土に埋めたイモが、たくさんのイモに増える。どう説明しても理解してもらえませんでした。
芽が出て、高く伸びて、葉が増えて、葉っぱが枯れたら、芋掘りの季節。子供にはもちろん、私と妻にとっても、ジャガイモの生長の過程を体験するのは初めてでした。「ジャガイモ堀りまだあー?」畑仕事から帰る度に聞いてくる子供たち。「お父さんにもいつかわからないんだ。」
お盆を過ぎて気温が下がってくると、大きく茂った葉が枯れ、芋掘りの季節が近づいてきたのがわかりました。ジャガイモが育つ間に生まれた次男(0)も連れて、家族での芋掘りが始まりました。
どこに埋まっているかわからないジャガイモを傷つけないように、スコップと手で土を崩して探していきます。親に掘らせてイモだけ拾っていく長男、手が届く範囲で慎重にちょこちょこ掘っている長女。子供以上に興奮して掘り進んでいく妻、掘り残しがないように深く探す私。
それぞれが思い思いに楽しんだイモ堀り。小玉が多いけど、1年目にしては立派な出来栄えです。やっと、イモからイモができる畑の秘密が解明されました。3か月かけて体験した、大好きなジャガイモを最初から最後まで育てる作業に、子供たちは何を学んだのでしょうか。
ジャガイモを育てたことで、生命の神秘を感じ、農家さんへの敬意が生まれました。そんな食育の教科書通りの感想は期待していません。子供たちには、自分たちが大好きなジャガイモが、どこで、どうやって作られていて、どんなに大変な作業か知っておいてもらいたかった。
その上で、今までよりも少しだけ美味しく感じてくれて、またジャガイモを好きになって欲しい。今はそれで充分です。でもちょっとだけ期待するのは、子供たちに自分の家族ができた時、また同じようにジャガイモを育てる体験をして欲しいかな。
いつの日か、農家さんになる、コックさんになる、世界一美味しいジャガイモを開発する、どんな夢を目指すかは、完全に子供たちに任せたいと思います。子育ても、初めてのジャガイモ作りに似ています。育て方なんてわからないし、結果がわかるのは芋掘りの時。いつになることやら、気長に待つしかありません。