©100マイル地元食
EPISODE #8
娘はうどんがお好き
北海道-道央エリア
6月
ある朝食の時、もうすぐ3歳の娘がふいに、うどんが食べたいと泣き出しました。これまで、麺が好きな娘は、うどんやラーメンを作ってとよく注文してきましたが、前と今では難易度が違います。ですが、ダメと言って我慢させる訳にはいきません。
100マイル地元食へのチャレンジは、私たち夫婦の想いで決めたことです。子供たちは、何も理解しないまま大変な食生活に参加しています。前のご飯の方が良かったと感じさせてしまえば、新しい食生活を通じて我が家みんなで幸せになるというゴールが揺らいでしまいます。
娘には、朝ご飯には間に合わないから、昼ご飯まで待ってねと納得してもらいます。残された時間は4時間。ぎりぎりの挑戦です。
我が家は、娘だけでなく、私も妻も、息子も麺類が好きです。私は、ラーメンとそば、妻はラーメンとパスタ、子供たちは断然うどん派です。
しかし、外食での麺料理は、ほぼ間違いなく100マイル範囲外の食材が使われているので食べられません。スーパーで売っている生麺や乾麺も、小麦粉は範囲内でも、塩や油、かん水や卵など、範囲外の物が入っていて買えません。
これからは、麺は我が家で自作しないといけません。そんな入門者にとって、うどんは、小麦粉と塩だけで作れるありがたいメニューです。
薄力粉と強力粉を半々で混ぜ、中力粉にします。ビニール袋の中で塩水を混ぜて生地にしていきます。まとまったら2時間寝かせ、今度は足で踏んで延ばしては折り畳み、こねていきます。この作業でうどんにコシが出ます。最後はまた丸めて30分寝かせる。これだけですでに3時間です。
東北出身で関東育ちの私にとって、うどんのつゆは、醤油とみりんの濃い味と濃い色、鰹ダシの強い香りが当たり前でした。しかし、例のごとく、今の我が家には、醤油もみりんも、砂糖も鰹節もありません。ある食材でどうするか、パズルのような料理が始まります。
まず、我が家から南側にある太平洋の日高昆布でダシをとります。ここまでは普通ですが、鰹節に代わる魚介類のダシが欲しい。冷凍庫をあさっていると、今が旬の時鮭の頭とカマをとっておいたのを思い出しました。これなら良いダシが出そうです。
時鮭に熱湯をかけて汚れを落としてから、昆布ダシの中でじっくり煮出します。30分ほど経って味見すると、うま味は感じるものの、少し弱い。ガツンとくる鰹ダシと比べると優しく控えめな味わいです。慌てて、良いダシが出るらしい、南幌町のたもぎ茸も入れてみます。
そろそろ、寝かせていたうどんが出来上がるころです。このダシで勝負するしかない。塩と酒で味を調えて、青ネギを加え、つゆを完成させます。
足と綿棒で延ばした生地を包丁で5㎜幅に切っていきます。見た目は見事なうどんです。5㎜だから細目のうどんで丁度良いかなと思いきや、全然違いました。うどんの生麺は、茹でると太さが2倍になります。冷水でしめながら味見すると、しっかりしたコシ。小麦の香りを感じます。
できあがっていた時鮭つゆをかけ、三つ葉をのせて完成です。黄金色で透き通ったほのかなうま味のつゆ。極太うどんとの組み合わせはどうか。自信がありませんでした。
妻とお義母さんの評価は上々です。最後に加えた、たもぎ茸が効いたのか、上品で複雑な味わいのつゆ。その分、うどんの小麦の香りが活きてバランスが良い。
娘はどうか、4時間かけて作ったうどんを食べてもらう緊張の一瞬です。一口食べて、「...いつもと違う」と食べるのを止めてしまいました。落胆しながらも、納得します。確かに美味しいうどんですが、醤油味のうどんとは違います。私も醤油味のうどんが無性に食べたくなりました。
早くも発酵食品にも挑戦する時がきました。1歩踏み出しては新たなテーマに突き当たる。そんな100マイル地元食の日常です。
時鮭の塩味うどん
器にうどんを入れ、つゆをかけて、三つ葉を乗せる