©100マイル地元食
EPISODE #94
【妻の回×お料理】甘い甘いりんごゼリー
「お母さん、りんごのゼリーが食べたい。」
まだ100マイル地元食の挑戦を開始して間もない頃、長男(6)が突然、幼稚園の帰り道で私に伝えてきました。この発言、我が家にとっては大事件でした。
今週の妻の回は、長男のリクエストに応えた甘い甘いりんごゼリーのお話です。
なぜなら、うちの長男は、甘いものが嫌いだからです。チョコも飴も、あんこも食べませんでした。挑戦開始前、幼稚園のお友達と遊んだ時のこと、他のお母さんが、長男が食べる物が無いと可哀想だからと、わざわざしょっぱいお菓子を買っておいてくれました。それほど、息子の甘い物嫌いは徹底していました。
夏場の幼稚園で、水遊びの後に出してくれるアイスも食べてきたことがありません。ゼリーも勿論、今までかたくなに拒否してきました。そんな彼が突然、「りんごのゼリーが食べたい。」と、言ったのです。我が家の中がざわつくほどの大事件でした。
しかし、我が家が挑戦している100マイル地元食では、ゼリーを作るのはほぼ不可能と諦めていました。実は、ゼリーは私も食べたくなり、作れるかどうか調べたことがあったのです。
ゼリーは、果汁と固めてくれる物があれば作れるので、作り方は簡単なのですが、100マイル範囲内にその肝心の固める物がありません。つまり、ゼラチンか寒天。片栗粉でも作れるとネットにあったので、試しに作ってみたことがありましたが、う~ん、ちょっと違う。
色々と探していたら、偶然ある本に出会いました。
「私の保存食ノート ―いちごのシロップから梅干しまで―」(佐藤雅子、文化出版局、1990)
随分と古い本ですが、梅干しからケチャップ、デミグラスソースまで様々な加工食品の作り方が紹介されていて、我が家では大活躍しています。その中に見つけました、「りんごゼリーの作り方」です。
読んでみると、りんごジャムを作る時に出る水分を、お砂糖と煮詰めるとゼリーになると書かれています。興奮して旦那に伝えると、「これでゼリーができる理由が分からない。」と、冷たい反応です。旦那は典型的な理系タイプです。
私がテレビで見たり、人から聞いたりしたマメ知識は、ちゃんと理屈まで伝えられないと、鼻で笑われて信じてくれません。しかし、今回は、意地でも納得させないといけません。「理由は分からないけど、とりあえず作れそうなりんごゼリーは、世界にこれしかない。」と、文系っぽく、強引に納得させます。
しかし、この時はまだ初夏。りんごが出回り始める秋までは、息子に我慢してもらうしかありませんでした。そして待つこと数カ月。ようやく、壮瞥町のくだもの農家浜田園に念願のりんご狩りに行き、りんごを大量に買って帰ってくることができました。
まずはりんごジャムから作ります。リンゴを皮ごと6等分にし、ヘタだけを取って、大きなお鍋に少量の水とともに入れて、強火で煮ていきます。これしか水を入れてないのに強火で、しかも混ぜてはダメと書いてある...不安は募ります。
少しすると、りんごの良い香りが立ち上ってきました。完成形がよく分からない料理を、写真もないレシピの手順を追いながら作るのは、なかなかスリリングです。りんごが柔らかく煮えたので、ザルで果肉と水分に分けます。果肉はマッシャーで潰して粗目に裏ごしをし、お砂糖と煮詰めてジャムにします。
そして、いよいろゼリーです。先ほどのりんごを煮た時の水分に、お砂糖を大量に入れ、煮詰めるとだけ書いてあります。しかし、入れるお砂糖の量が尋常ではありませんでした。水分と同量...今回は900グラムの水分がとれたので、つまり900グラムのお砂糖です。滅多に人を疑わない私も、レシピを疑い始めます。
甘さは控えめにしないと、息子はきっと食べてくれないでしょう。でも、お砂糖の働きでゼリーを固めている可能性もある。いろいろと悩んだ結果、お砂糖はちょっと減らして700g入れることにしました。
お砂糖と水分をお鍋で煮ていきます。半分くらいの量になったところで、耐熱容器に入れて冷やします。とても綺麗な赤いゼリーに仕上がりましたが、果たしてその味やいかに。写真を撮るために器にゼリーを盛っていた旦那が先に味見します。「こりゃ、長男には無理な甘さだな。」
聞かなかったことにして息子に出します。警戒しながら息子が口にします。一口、そしてまた一口。気に入ったかな、思ったところで息子が、
「お母さん半分あげようか?」
「もう、いらないの?」と聞きます。
「美味しいんだ。うーん、でもちょっとだけ甘いかな。」と息子が遠慮がちに言います。
私も食べてみました。甘い。かなり甘い。
これは、昔どこかで食べたことがある味だなと思い出しました。三姉妹の末っ子の私。一番上の姉が好きだった、ゼリーとグミの間みたいな甘いお菓子。調べてみると、信州の銘菓だそうです。通称「フルーツゼリー」ここで気が付きました。まさか、レシピ本が言っていたのは、こっちのお菓子だったか...
6歳の子供にまた気を遣わせてしまい、なんとも申し訳ない気持ちになった瞬間でした。
りんごジャム
りんごゼリー