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【シーズン1.5】再現なるか!旅のまとめの鳴門うどん

EPISODE #237

【シーズン1.5】再現なるか!旅のまとめの鳴門うどん

2019.5.20

シーズン1.5,四国瀬戸内旅行

食材調達は順調!

4泊5日の瀬戸内・四国旅行は早くも4日目。この日はついに「鳴門うどん」の再現に挑戦することにしました。旅の初日に食べて心を打たれた「鳴門うどん」。今回の旅行は「100マイル地元食ルール」でありながら外食をOKにしました。その代わりに、これはと感じた外食のメニューを、宿泊している香川県琴平町(ことひらちょう)から半径100マイル(160.9㎞)の食材だけで再現しないといけません。旅先の土地を楽しむために、妻と私が考えた特別ルールでした。

一番苦労するはずだった小麦粉「さぬきの夢」があっけなく手に入った今、その他の食材も追い風に乗って買っていきます。香川県まんのう町の「道の駅 空の夢もみのきパーク仲南産直市」では特産品のひまわり油と青ねぎを買い、徳島県の地元スーパーでは、甘さが自慢のさつまいも「鳴門金時(なるときんとき)」と、鮮やかな朱色が美しい「金時にんじん」を買うことができました。つゆの塩気は、薄口醤油の代わりに高知県の桂浜のお土産屋さんで買った天日塩「海洋深層水100% 竜宮のしほ」で、甘みには、みりんの代わりに「淡路牧場」の直売所で買ったはちみつと、香川県産米100%のお酒「綾菊純米酒がいな酒」を使うことにしました。小豆島の「ヤマロク醤油」のお醤油は、100マイル外の原料も使っていますので、家に持ち帰ってゆっくり大切に使うことにします。

淡路島の玉ねぎと徳島の金時にんじん
淡路島の玉ねぎと徳島の金時にんじん

小豆島では、もう一つ重要な食材を買うことができました。それは瀬戸内海で獲れた小魚を茹でカリカリに乾燥させた “いりこ” です。関東地方で生まれ育った私にとってはあまり馴染みの無い食材ですが、西日本では出汁をとる素材としてよく使われています。ソウダガツオの鰹節 “宗田節” だけではなく、こちらも入れてみることにしました。

買い集めた食材は、当初の予定とは少し変わってしますが、こんな風になりました。うどんを作るには十分そうです。

  • 小麦粉「さぬきの夢」(香川県内)
  • 塩「室戸海洋深層水 竜宮のしほ」(高知県室戸市)
  • 玉ねぎ(兵庫県淡路島内)
  • さつまいも「鳴門金時」(徳島県内)
  • 「金時にんじん」(徳島県内)
  • 青ねぎ(香川県まんのう町)
  • 卵(徳島県内)
  • ひまわり油(香川県まんのう町)
  • 宗田節(高知県土佐清水市)
  • いりこ(香川県小豆島町)
  • 「細川養蜂園淡路島産はちみつ」(兵庫県淡路島内)
  • 「綾菊純米酒がいな酒」(香川県綾川町)

本家ならこれを使うべきなんて堅いことは言わずに、出会った食材でなんとか工夫する。そんなドキドキ感もまた「100マイル地元食」の魅力です。「鳴門うどん」を再現するのに、「讃岐」の粉を使うのだって気にしません。昔より遥かに便利になった世の中、現代人の地元はもう少し広い範囲になっているのです。

初めての鳴門うどん作り

まずは、主役のうどんを打ちます。「100マイル地元食」のチャレンジ中には我が家で何度か打ったことがありましたが、それは一般的なうどんでした。今回は、太さも食感も全く違う「鳴門うどん」です。地元の製粉会社さんがネット上で公開しているレシピを頼りにしました。小麦粉500gに対して、塩分濃度3%の塩水を500g、つまり塩15gと真水485mlを合わせたものを用意します。粉が飛び散らないように、大きなポリ袋の中で粉と塩水を合わせて、まんべんなく馴染むよう空気を含ませてシェイクします。1cmぐらいの細かな粒になってきたら、一つの大きな生地の塊にまとめます。ここまで来たら、水分が行き渡るように1時間ほど袋のまま寝かせておきます。

この時点で、生地はずぶずぶと指が入ってしまうほどに柔かくなっています。一般的なうどんでは、加水率50%、つまり粉と塩水を1対1にするのは同じでも、塩水の塩分濃度を10%以上ともっと高くします。水は小麦の中のたんぱく質と反応して、コシの素となるグルテンを作ります。塩はその反応を強める働きがあって、塩が少ない「鳴門うどん」はその分、コシが弱い柔かい生地になるのです。

次に、つゆのベースになる出汁を取ります。水を張った鍋に、欲張った一掴みの “いりこ” と、宗田節を節のまま入れて弱火にかけます。宗田節は薄く削った物を使うのなら、沸騰の直前ぐらいに入れるのが良いのでしょうが、買ってきたのは長さ太さ2cmほどの小ぶりの節のままの物です。ふやかすためにも、水からゆっくりと煮出すことにしました。ぷつぷつと小さな泡が上がり始めると、小さな銀色のいりこは上下に踊りだし、黒い宗田節は水底に横たわったままゆらゆらと揺れだします。じわりじわりとお湯にエキスが溶け出し、目指す金色まではもう少しです。

いりこと宗田節で出汁をとる
いりこと宗田節で出汁をとる

上に載せるかき揚げも忘れてはいけません。「舩本うどん」では確かに、玉ねぎを炒めて焼き色を付けてから揚げていたのを、目ざとく見つけていました。憧れの淡路島産たまねぎを炒めるとふわっと甘い香りが立ち上ります。それにぷっくりと膨れた鳴門金時に、色鮮やかな金時にんじん。どちらも5mmほどの太さの細切りにして準備万端です。ここからは妻にバトンタッチ。「さぬきの夢」の衣でまとめたら、ナッツのように香ばしいひまわり油で揚げてくれます。

あんなに硬かった宗田節がだいぶやわらかくなり、ザルで濾すと澄んだ金色のお出汁になりました。味付けは塩とはちみつと酒だけ。塩分濃度をだいたい2%になるように塩を入れ、はちみちはほのかに甘みを感じる程度に入れました。存分に旨味を引き出した宗田節といりこのお出汁にはそれだけで十分です。邪魔をしないように最低限の調味料だけで仕上げました。

緊張の仕上げと子供の反応

ここからは緊張の連続です。寝かせておいた生地を麺棒で大きく伸ばします。生地が柔かくすぐに伸びますが、いつ穴が空いてもおかしくないほどで慎重になります。2mmぐらいまで薄くなったら、折りたたんで包丁で切ります。狙ってもいないのに、不思議と本家と同じ不揃いの太さになっていきます。

どこまでも伸びていくうどん生地
どこまでも伸びていくうどん生地

横で沸いていたお湯にすぐに投入して茹でます。初めて打ったゆるゆるのうどんが、お湯に溶けて消えてやいないかと何度も覗き込みながら10分、しっかりと茹で上がったうどんを網ですくい器に盛ります。つゆをかけて、かき揚げを載せ、刻んだ青ねぎを載せて、一気に完成させました。

やっと再現できた「鳴門うどん」
やっと再現できた「鳴門うどん」

最後の緊張の瞬間は、何よりも子供たちが食べてくれるかどうかです。見慣れない澄んだ金色のつゆ、びろびろにふやけたうどん、ですが子供たちは何の抵抗もなく、飛びつくように食べ始めてくれました。理由は、やはりお出汁の香りでしょう。普通の鰹節や、札幌で使っている鮭節では出せない強く刺激的でいて馴染みのある香り。「これは美味しい物に間違いない。」妻と私がキッチンに立つ間、何度か様子を見に来ていた子供たちは、その敏感で正直なセンサーで美味しい予感を感じ取っていたのでしょう。

競うように食べる3人の子供たち。長男(7)、長女(4)からすぐに「おかわり!」の声が上がります。ちょうど茹で上がった2回目のうどんを、初めの一杯とほとんど同じ量を盛ってあげました。さあ、大人も食べようと席に着こうとした時、まだしゃべらない次男(1)も遅れてやってきました。「お兄ちゃん、お姉ちゃんがおかわりしたんだから、もちろん僕のもあるでしょ?」と言いたそうな顔で、器を持ってこちらを見上げています。これまでの料理の苦労が報われる瞬間です。

無言でおかわりを求める次男(1)
無言でおかわりを求める次男(1)

子供たちの食べる姿にほっとしたら、大人たちも無性にお腹が減ってきました。何時間もうどん作りに没頭していたのですから無理もありません。家族全員で「鳴門うどん」を楽しみます。このうどんを一言で説明するなら、“ 沁みるうどん ” でしょうか。四国を挟み込む北の瀬戸内海と南の太平洋、その豊かな恵みが旨味になって器の中のお出汁に溢れています。柔らかですが麦の風味を閉じ込めた麺。土地の滋養を甘みにしてアクセントになってくれたかき揚げ。口に含めば舌に沁み込み、飲み込めば食道と胃にじわーと温かく沁み込んできます。身体と心が求めていたものが、全身の細胞レベルで一気に沁み込んでくるうどんです。正直、ここまで再現できるとは思っていませんでした。

苦労した先にある喜び

さて、この日の昼間、私たちは宿のすぐ近くにある金刀比羅宮(ことひらぐう)を参りをしていました。1000年以上の歴史を持つ海上交通の守り神とされる神社で、標高524mの琴平山(ことひらやま)の中腹にあって、本宮までは785段の果てしない階段を昇らないといけません。上の二人の子供たちはなんとか歩いて上がれそうですが、1歳の次男には無理でしょう。でも家族全員で登りたい。次男は私が抱っこひもで抱えて登ることにしました。1月というのに噴き出す汗。一歩登るごとに10kgを超えた体重が肩に食い込みます。ぶうぶうと文句を言いつつも手を引いて助けてくれる長男と長女。1時間ほどかかってようやく本宮に辿り着くことができました。

金刀比羅宮本宮から見た “地元” の景色
金刀比羅宮本宮から見た “地元” の景色

本宮の前は、琴平町や善通寺市の平地を見渡し、遠くには瀬戸内海や瀬戸大橋を望む、見事な見晴らし台がありました。苦労した先で出会った絶景。この旅で我が家が “地元” と呼んだ土地が眼下に広がっています。初めて見る景色であるのに、生まれ故郷のような愛着を感じます。「100マイル地元食旅行」は、旅というより生活に近いのかもしれません。訪れる土地に身を任せるように歩き、買い、料理して食べる。時には作りたい料理のために、汗をかいて食材探しに奔走します。この数日間、我が家はこの土地で生活していたのです。この土地には素晴らしい景色と美味しい食べ物がある。おそらく他のどの観光客よりも、私たちがそう理解していたはずです。

登りよりも堪える下りの階段、すでに足は棒のようです。子供たちに引かれる手、揺られる内に寝てしまった次男の重さを感じる肩。彼らは、いつの間にこんなにも大きくなったのでしょうか。新たな世界を楽しんでいるのは、大人たちだけではありません。彼らもまた、好奇心と食欲をフル稼働させて、目の前に現れる新しい何かに体当たりしていきます。旅は残すところ明日の1日だけ。もう一つの宿題となった岩城島のレモンを求めて、海を渡ることになります。

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