©100マイル地元食
EPISODE #215
【キャンピングカー旅】パンとコーヒーの特別な朝食
5日間のキャンピングカー旅行もついに最終日。多くの生産者さんに会えた夢のような旅も今日で終わりです。我が家らしい豊かな食生活ってどんなものだろう。旅の成果を抱きしめて今日も車を走らせます。
今回は、特別な朝食と、ある農家さんとの約束のお話です。
旅立つ前に家で焼いてきた食パンもついに底を尽いて、この日の朝は妻が早起きしてパンを焼いてくれました。オーブンもパン焼き器も無いキャンピングカーの中でも、妻は器用にフライパンパンを焼いています。
自家製ベーコンを薄切りにしてベーコンエッグを焼いていると、香りを嗅いだ子供たちもそわそわし始めます。豚肉と塩と砂糖とありあわせのハーブだけで作ったベーコンでも、子供たちにとってはこの上ないご馳走になります。
私と妻には、この日の朝食の楽しみがもう一つありました。上川町の辰巳農園の大豆コーヒーです。辰巳さんに勧められたペーパードリップで淹れてみます。ポタポタと濃い褐色の液体が滴り落ちるとすぐに良い香りが広がります。きな粉のようでもっと深みのある独特の香りです。
妻が焼いてくれたアツアツのパンと、自家製ベーコンのベーコンエッグ、それに、やっと手に入った大豆でできたコーヒー。すでに我が家のダイニングのように慣れてきたキャンピングカーの食卓を囲みます。
初めて飲む大豆コーヒーは、どこかほっとする味がしました。コーヒー豆のコーヒーと違って、苦味は柔らかく、酸味がありません。その分、大豆が持っていた甘さがほのかに残っていて優しいのです。
世界三大珍味も、知る人ぞ知る究極の一品もありません。特別な食べ物ではなくても、私たち家族には一つずつ抱きしめたくなるような愛着のあるメニューばかりです。ゆっくりと過ぎていく時間が胸に刻み込まれていく、そんな特別な朝食になりました。
旅行の最終日だと言うのにまだ雨が降っていました。山道を慎重に走り抜けた先は、最後の約束がある留寿都村です。いつもの待ち合わせ場所の道の駅まで来てくれたのは、よしかわファームの吉川さんご家族でした。
吉川さんご夫婦は、この1年間、大豆にごぼう、長いもにジャガイモと多くの野菜でチャレンジを支えてくれました。感謝してもしきれません。雪が降って畑に何も無くなってからも、何度も家族でお会いする友人関係になっていました。そして、いつしか同じ目標を持つようになったのです。
「生産者と消費者が友人になれるファーマーズマーケットを開く」
生産者さんの吉川さんと消費者である我が家の素敵な関係は、おそらく、今とは違う食生活を求める多くの現代都会人にとって魅力的に映るはずです。
地元の生産者さんと消費者が語らい、食べ物を手渡しで受け取って、また次も会いましょうね、と約束をして帰っていく。そんな、お互いの日々の暮らしの一部のような自然体のファーマーズマーケットを開くこと。それが私たちの約束になりました。
留寿都から我が家につながる雨の峠道。後部座席の妻と子供たちは、長旅の疲れもあって、すっかり寝入っています。しばし、静かな一人ドライブを楽しみます。
「食べる」ことが、食べ物を口に入れる瞬間だけじゃなく、その前後にある時間も含むとすれば、このキャンピングカー旅行の間、我が家はずっと「食べる」ことの中にいたことになります。
何を食べるのかはそんなに重要じゃなくて、どんな「食べる」時間を過ごすかの方が大切なんだ。何を食べるのかにこだわり続けてきた100マイル地元食のチャレンジの終着点で、こんな答えに行き着くなんて、我が家らしい意外性に満ちた結末です。
今、私は、我が家がやっと見つけた豊かな食生活の中にいる。確かな実感とたっぷりの食材を手に家路を急ぎます。家に帰れば、このチャレンジも残りわずかです。