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【ストーリー】100マイル地元食って地産地消のこと?

EPISODE #180

【ストーリー】100マイル地元食って地産地消のこと?

2018.4.10

ストーリー

高校の恩師を我が家に招いた100マイル地元食のおもてなしパーティー。先生からある言葉を教えてもらいました。「四里四方に病なし」 我が家が挑戦する食生活に近い考え方が、100年以上も前に提唱されていました。

今回は、食生活にまつわる言葉を調べ、100マイル地元食の価値を考えたお話。

 

四里四方は明治時代の生活圏

先生が教えてくれた「四里四方に病なし」という言葉。調べてみると、4里の距離、つまり1里=約4kmの4倍の約16km、の範囲内でとれた食べ物を食べていれば、病になることが無いという意味でした。言われ始めたのは明治時代です。

「昔はこんな言葉があったけど、今の時代でやるとわねえ。」

奇しくも、我が家が挑戦している「100マイル地元食」は、自分を中心に四里16kmの約100倍、160.9kmの範囲内でとれた食べ物だけで生きる食生活です。明治時代は、人力車や馬車が登場したとは言え、まだ交通手段の主役は徒歩。16kmは、なんとか徒歩で日帰り往復ができる距離だったはずです。

それから100年が経ち、交通手段が発達したことで、人類の移動距離は飛躍的に伸びました。自動車が当り前の現代では、100マイルが日帰りで往復できる距離になりました。昔の言葉にも、今につながる深い意味がありそうです。調べてみると、たくさんの事がわかってきました。

 

マクロビオティックの源流は身土不二

「四里四方に病なし」を掘り下げて調べてみると、「身土不二」(しんどふじ)という言葉に行き着きました。もとは14世紀から文献が残っている仏教用語で、「身」(今までの行為の結果)と「土」(身がよりどころにしている環境)は切り離せないという意味です。仏教用語では(しんどふに)と読みます。

それが、1907年に石塚左玄を会長として発足した食養会が、その後、会の大原則として「身土不二」を打ち出しました。食養会では、身体と食べ物を生産する地元の土は不可分という意味で、この言葉を採用しました。「身土不二」を体現する具体的な食生活が、「四里四方」の物を食べるというものだったのです。

明治後期の日本は、西洋の食品が多く導入され、目新しい肉、乳製品、卵がもてはやされていました。そんな食生活の軸が揺らいだ時代に、政府の思惑もあって、玄米食と地元食材を中心にした食生活を提案したのが食養会でした。

その精神は、桜沢如一が1928年に提唱した「マクロビオティック」に引き継がれて、現代に至っています。

稲

マクロビオティックは玄米を基本にした食生活

 

地産地消は生活習慣病対策

『「100マイル地元食」って、つまり「地産地消」のことですよね?』

我が家の特殊な食生活を説明すると、よくこう返されます。違います、と答える前に、広く浸透した「地産地消」という言葉の意味と成り立ちを説明しないといけません。

1981年、農林水産省が「地域内食生活向上対策事業」の中で使い始めたのが「地産地消」という言葉です。この頃、農村の食生活はまだ、米と、味噌や漬け物といった塩分が多い食べ物が主流でした。当時、死因第1位になった脳卒中のリスクを下げるため、地域で緑黄色野菜などを作って地域内で消費してもらう。この運動のスローガンが「地産地消」でした。

その後、増加する輸入食品に対抗するためや、地域農業の振興のため、最近では食育のためと、いろいろな目的で「地産地消」という言葉が使われてきました。「地産地消」と言われて、はっきりと意味が思い浮かばないのは、時代に合わせて意味が変わっているからです。

葉物野菜の売り場

地元で消費される地元の野菜

 

100マイル地元食は日本版 THE 100-MILE DIET

じゃあ、「100マイル地元食」って何なのか、改めて説明します。

ルーツは、カナダ西海岸の大都市バンクーバーに住むアリッサとジェームズの2人が始めた、100マイル内で生産された食べ物だけで1年間生活するチャレンジです。2007年には、「The 100-Mile Diet, A Year of Local Eating」(2007, Random House)という本が出版され、話題になりました。

我が家が、この食生活に憧れて日本版として始めたのが「100マイル地元食」です。原作では、遠くから燃料をたっぷり使って運ばれてくる食べ物を避けることで、地球温暖化を防ごうとしました。でも、我が家が挑戦する意味は、もう少し別のところにあります。

都市に住む現代人は、あらゆる食の選択肢と情報を手にしていますが、幸せな食生活を送っていると自覚する人は少ないのではないでしょうか。豊かになり過ぎたことで、与えられる物を無自覚に食べているだけ。そんな贅沢な環境が、食生活をつまらなくしていると思うのです。

「100マイル地元食」は、無機質で退屈な食生活から抜け出すために、我が家が辿りついた答えでした。

函館自由市場

多すぎる食の選択肢は必ずしも幸せな食生活につながらない

 

消費者一人一人の食生活がある

「100マイル地元食」と「地産地消」の違いはこう考えています。

「地産地消」は、誰かが作って与えてくれた食生活のスローガンです。「四里四方」「身土不二」だってそうかもしれません。そこには、消費者の存在が見えてきません。消費者の数だけ食生活があるはずなのに...

「100マイル地元食」にもシンプルなルールはありますが、挑戦する消費者の好みによって、住む地域によって、まったく異なる食生活になります。100マイル内の会いにいける生産者が作ってくれた食べ物だけを食べる。それだけで、食卓には自分だけのストーリーが溢れます。

キッチン

消費者の数だけ食生活があるはず

心地よい不自由や苦労の先にある出会いや感動が、忘れかけていた食の大切さ思い出させてくれます。そんな食生活を通して、心身ともに健康になり、地域の社会問題が解決に向かい、環境を守ることにもつながる。「100マイル地元食」は、飽食の時代の現代都会人にこそ、価値がある食生活です。

コメント

  1. 重岡証次 より:

    福岡県うきは市でとおふ屋を営んでいる重岡と申します。

    昨晩、知人から聞いた四里四方の言葉に興味を覚え検索してここにたどり着きました!

    本当に内容もわかりやすく、まさに自分が思い、感じていた事を見事なまでに文字にしてあって、嬉しくなりました(^-^)
    まさに今月から、地元うきは産大豆100%のとおふ屋に生まれ変わり、期待と不安を感じながら、自分がやろうとしている、やりたいと思っていることをどう表現して伝えたらいいだろうと思っていました。ただの地産地消とかで片付けてほしくないって思ってました。ありがとう御座います!もっとお話をしたいです!

    • 鈴木 俊介 より:

      重岡様、

      初めまして。100マイル地元食の中の人の鈴木と申します。コメントいただきとても嬉しいです。

      地元産大豆100%のとおふ屋さんだなんて、地域の方たちは大喜びですね。いつか福岡まで旅行に行き食べてみたいです。その時はよろしくお願いいたします。

      多くの方が地域社会にとって地産地消が重要と訴えていますが、消費者個人にとってはどんなメリットがあるのだろう?とずっと考えていました。100マイル地元食チャレンジを始めてからは、五感を使ってたくさんのことに気が付くことができました。

      地元の生産者さんや作り手さんとつながり、食生活がシンプルに「楽しくて美味しい」ものに変わっていきました。食べ物を通して、自分と地元の世界が一つになるような感覚です。これはもう、メリットしかないですよね。

      重岡様のような取組がハブになって多くの方たちをつなぎ、地域が美味しく盛り上がれば、我が家のような食いしん坊にとって最高の世界になります。ちょっと遠くからですが応援しております!

      今後ともよろしくお願いいたします。

      鈴木

    • クマダノリコ より:

      福岡の知人からたけのこを頂戴しました。
      私の住む福島県ではたけのこは5月にならないとできませんので
      大喜びで早速茹でで煮物にしていただきました。
      その柔らかさにびっくりしました。
      でも、地元のたけのこと味が違うことに気がつきました。
      味が淡泊で若干の水っぽさを感じたのです。
      これが身土不二ということかと納得しました。
      その土地の気候風土が作物を作り、ひいては人間の体も作っているのですね。
      地元の食べ物をもっと大事にしなくてはと思いました。

      • 鈴木 俊介 より:

        クマダ様

        コメントありがとうございます。

        それは興味深い体験をされましたね。土地が違うと、タケノコの味も変わるのかあ。我が家が地元と呼んでいる自分から半径100マイル(160.9km)の範囲の中でも、土地ごとに食べ物の味が違うのだから、福島と福岡ではそれはもう大きく違うのでしょうね。

        クマダ様のように地元の食べ物の味に慣れ親しんだ方が、別の地域の食べ物を口にすると、当たり前と考えていたものが揺さぶられるような非日常の感覚があったかと思います。その先で、身体が食べ物を通して土地と不可分につながっている実感覚は、とても大きな安心感と幸福感をくれたのではないでしょうか。

        地元の食べ物を中心に生活しつつ、たまに外の物もありがたく食べる。このぐらいが丁度良いバランスかもしれません。現代の都会人は、地元の食べ物に触れる機会がほとんどありません。残念ですが、彼らはクマダ様が持たれた感覚の2歩も3歩も手前で食生活を送っています。

        ちなみに私も福島生まれで、会津地方の三島町の出です。今は、普通のタケノコが地元にない札幌にいますので、タケノコの食べ比べには憧れてしまいました。今後とも新しい発見を共有していただけると幸いです。

        100マイル地元食の中の人 鈴木

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