©100マイル地元食
EPISODE #110
【ストーリー】消費者にとっての直売所の価値
直売所にはもっと価値と可能性がある。そう信じてはいたものの、それが何なのか、本当のところよく分かっていませんでした。そんな時に訪れた、直売所で働けるという機会。
飛び込んだことで感じた、私たち、都会の消費者にとっての直売所の価値。今回は、直売所店員体験シリーズの最終回です。
消費者にとっての直売所の価値は、こんな感じでしょうか。新鮮な旬の食材が買える、自然の中で雰囲気が良い、安い、掘り出し物がある、トイレ休憩のついでに寄れる。どれも魅力的で、普段買い物をしているスーパーやネット通販と比べても、引けを取りません。
100マイル地元食に挑戦している我が家は、恐らく普通の消費者より、直売所に行くことが多くあります。そんな私は、もう少し深いところに直売所の価値があるのでは?と、感じていました。
それを確かめるために、道の駅230ルスツの農産物直売所で3日間も働かせてもらいました。売り場に立ち、農家さんと話し、お客さんに商品をおススメした3日間はあっという間に過ぎました。札幌に戻ってきた今、見えてきたもう一歩踏み込んだ価値がありました。
私が感じる価値をお伝えする前に、ちょっとだけ、農家さん目線の直売所の価値も紹介します。農家さんは、日々、夜明けとともに農作業を始めて、夜まで働きづめです。野菜を作るのが忙しくて、野菜を売ってる時間が無い。信じられませんが、本当の話です。
収穫した野菜をまとめて農協に渡して販売を任せる人が多いのも事実です。ですが、もっと手軽に地元で販売して、すぐに現金化したい農家さんもいます。そんな時に頼りになるのが、地元の直売所です。
収穫した野菜に、バーコード付きのラベルを貼って、直売所に並べて置くだけで、勝手に売れて、翌月には現金で売り上げが振り込まれます。自分で八百屋をやる必要もないし、ネット通販のページを作る手間もありません。農家にとっては、強い味方です。
つまり、消費者が直売所に感じている価値と、農家さんにとっての価値には、大きなギャップがあるのです。お互いハッピーなんだから、それでも良いじゃないか。そう思いつつも、私は、少しもったいないとも感じていました。
我が家が直売所に感じている、もう一歩踏み込んだ価値、それは、農家さんとの接点があることです。直売所で、いつもの農家さんが作った野菜が買えて、いつでも食べられる幸せ。畑にいる農家さんと、食卓を囲む私たちが、1つの野菜でつながる感覚です。
もし、多くの消費者の皆さんが共感し、同じように農家さんとの接点を求めるようになるとすれば、直売所はまだ、その価値を提供しきれていません。
農家さんが直売所に商品を補充に来た時、お客さんと直接会話が生まれる瞬間がありました。お客さんは嬉しそうに大きなキャベツを2つも買っていきました。農家さんも笑顔で嬉しそうです。偶然ではありますが、農家さんもお客さんも気付いていなかった、新しい価値が生まれた瞬間でした。
多くの消費者にとって、都会に住む理由の1つが便利さです。だけど、いつどこで買っても同じ味がする便利な食べ物に、つまらなさを感じることはないでしょうか?私たち夫婦は、そう感じたからこそ、100マイル地元食を始めました。
こんな少し変わった消費者にとって、道の駅は宝の山です。旬の今だけしかない、あの直売所だけにしかない、そして、農家さんと私たちの間だけで手渡される宝物のような野菜。野菜だけが欲しいわけじゃない、農家さんとのストーリーだって大切なんです。
都会人が、買い物を含めた食べることに費やす時間は膨大です。これを無駄で短縮したい悩ましい時間と考えるか、もう一歩ずつ歩み寄って楽しむことで、人生をより豊かにできる貴重な時間と考えるか。
農家さんと消費者が素晴らしい瞬間を共有できる、それが直売所に感じている価値と可能性です。