©100マイル地元食
EPISODE #69
【ストーリー】実りの秋に考え直す挑戦の理由
我が家がある札幌では、9月に入って朝がぐっと冷える様になってきました。夜のうちに蹴っ飛ばしていた布団を、朝になって頭からかぶり直します。
季節は収穫の秋の真っただ中。地元の農産物が一番豊富なこの時期。ですが、どこか気分が晴れません。近づいてくる長い冬のせい...だけではなさそうです。
今回は、久しぶりの真面目ストーリー、100マイル地元食を続ける意味について考えました。
北海道では、9月に入ってから毎週末、あらゆる場所で食べ物をテーマにしたイベントが開かれています。全てには到底行けないほどに。札幌の中心、大通公園では、3週間にわたって、道内の各市町村や札幌の外食店が、期間限定のお店を出す食の祭典、オータムフェストが開かれています。
100マイル範囲外の食材が使われているので、我が家では相も変わらず、食べられない物がほとんどです。そんなことを抜きにしても、今は収穫祭の時、秋は北海道の食が一番輝く季節であることに間違いはありません。
ですが、ここ数日、私だけ気分が晴れません。何か100マイル地元食生活が壁にぶつかっている気がしているのです。食材は食べ切れないほど手に入るのに、楽しくない。なぜなのか、妻と話をしています。
振り返れば、6月1日に100マイル地元食生活を始めて、私の食生活は一変しました。それまでは、コンビニに並んだどこで買っても同じ味のパンを食べ、スーパーに行けば値段だけを見て食材を買う、そんな無味無臭の現代都会人の食生活を送っていました。
家に眠っていた食材を引っ張り出し、100マイル以内の物だけにしたあの日から、全ては始まりました。塩や砂糖が無ければ山を越え、偶然の出会いや友人からの紹介を頼っては農家さんや漁師さんに会いに行きました。そして、北海道の夏がゆっくり始まるのと同時に、手に入る食材も増えていきました。
何も食べる物が無たったあの日に比べれば、今は、我が家で作ることができる料理やお菓子は格段に増えました。毎日のように料理をしていて、妻と私の腕も確実に上達してきています。こうなった今、ストレスなく、普通の食生活として100マイル地元食を楽しめつつあります。それなのに、あまり楽しくない。
カナダの本家「The 100-Mile Diet」の原作者の2人は、ある日、自分たちが食べている食べ物が地球上のあらゆる場所から届いているのに気付き、地球温暖化につながる長距離輸送に警鐘を鳴らすために、100マイルチャレンジを始めました。
私と妻は、100マイル地元食を始めた理由をもう一度考えてみました。私は、現代都会人の食生活がつまらないと感じていました。そして、もう一つ、日本中で苦しい状況に置かれている農家さんや漁師さんの力になりたいと考えていました。
私たちも、自分たちの食生活を豊かにするためだけに、この挑戦を始めたわけではありませんでした。無自覚に受け身の消費を続ける内に、見逃してしまった地元の食べ物の価値。そんな本質的な価値を守り続けようとする生産者さん達がいるなら、消費者の立場で一緒に頑張りたかった。
これが、我が家の100マイル地元食への挑戦の原点でした。これを見失い、今の自分たちの生活だけを考えていたことが、楽しくなくなっていた理由だったのです。
この土地に住む限り、そして、この特殊な食生活を続ける限り、もうすぐ訪れる長く厳しい冬は脅威です。全てが真っ白な雪と風に覆われ、打ち寄せる波が海を閉ざします。ですが、そんな重く暗い季節だからこそ、味わえる食べ物や、出会える人がいるはずです。
豊かな秋の実りを前に悩み、立ち止まり、足元を見つめ直したことで、我が家が進むべき道が、なんとなく見えた気がします。いつの日か、我が家の挑戦に賛同してくれる人達が現れ、このライフスタイルが広まったとき、私たちの地元には、少しだけですが変化が生まれるはずです。
迷った時は、もう一度スタートした時の想いに戻ってみる。そうすれば、迷っていたのではなく、原点を忘れていただけなんだと気付くことができます。長い冬の前に、しっかり食べて体力をつけておいた方が良さそうです。