©100マイル地元食
EPISODE #37
トマトケチャップの値段
北海道-道央エリア
7月
ずっと夢だったケチャップ作り。どでかい鍋で、トマトを煮詰めている間、どうしても気になることがありました。このケチャップ、いくらなんだろう?
100マイル地元食では、これまで購入する食べ物の値段は、考えないようにしていました。たぶん普通の食生活より、高いものを買っているから。
あらためてしっかり計算してみると、結果は意外なものでした。今回は、ケチャップとまた金の話。
以前にも書きましたが、調味料は偉大な発明品です。本来、素材が持っている旨味、具体的にはアミノ酸をしっかり引き出して、いつでも使えるようにしてあるからです。調味料があれば、調理の時間を短くすることができるのです。
この日作ったのはケチャップでした。ケチャップにはトマトの旨味成分、グルタミン酸がたっぷり溶け出しているから美味しい。このグルタミン酸は、豆味噌にもたくさん含まれています。
味噌は発酵させるのに最低一晩、美味しくさせるには数カ月も必要です。ですが、ケチャップは発酵が必要ないので数時間でできます。だから、ずーっとトマトがたくさん出回る旬を待っていたんです。
まず主役は壮瞥の清水農園のトマト、2.8kgで760円(おまけ込み)。甘みを加えるために入れた壮瞥の新玉ねぎ、400gで100円。コクを加えるために入れた白老牛すね肉の茹で汁、タダ(茹でたお肉は別の料理に使ったからタダ!)。洞爺湖町のカムイ・ミンタルの塩、50gで200円。藤野ワイナリーの白ワイン、200㏄で500円。それと、ローリエとローズマリーをちょっとだけで100円。材料費の合計は、1,660円です。これが高いのか、安いのか、できあがった量を見ないとわかりません。
トマトを、皮ごと小さく切っていきます。すぐに煮崩れるように小さく小さく、2.8kg...。我が家のキッチンは私には少し低くて、腰が痛い。玉ねぎはフードプロセッサーでさらに細かく刻んでおきます。
その間に、圧力鍋で白老牛のすね肉を茹でます。臭み消しにネギの青い部分と日本酒を入れてます。最初はフタをせず、アクを丁寧に取り、アクが出なくなったらフタをして30分茹でます。火を消して、圧力が下がるまで30分ほど待ちます。
家にある一番大きな鍋に、すね肉のゆで汁2リットルほどたっぷり入れ、刻んだトマトと玉ねぎ、白ワイン、ハーブを入れ、気長に何時間も煮ます。だんだんと水分がとんで、煮詰まってくると鍋底が焦げやすくなります。木べらで混ぜつつ、3、4時間は煮詰めたでしょうか。
途中で、塩も入れます。塩分濃度ができあがりの分量の3%ぐらいになるように...そんなの、わからないからちょっとずつ入れて、煮詰めながら味見を繰り返します。貴重な塩、ケチっていると自然と薄味になります。
木べらですくって垂らすと、タラーっとなって、落ちたら盛り上がるぐらいの濃度まで煮詰まりました。そろそろ良さそうです。濃くなればなるほどはねて飛び散ります。出来上がる頃には、コンロ周りはトマトの良い香りでいっぱいです。
保存用の密閉できる瓶に熱いうちに詰めていきます。瓶はよく洗ってアルコール殺菌しておきました。これで何カ月持つかな。出来上がりは大きめの瓶3つ分、全部で1,500㏄もできました。
さあ、お金お金、値段の計算です。自家製ケチャップ1,500㏄で、材料費は1,660円。いくつかの市販されているケチャップと100g単位で比べます。じゃじゃん!
この値段を見て、少しホッとしました。そんなに高くない。それどころか、以前買っていたK社のケチャップよりわずかに高いレベルでした。市販されているプレミアムケチャップの1/2か1/3です。我が家の手作りプレミアムケチャップが!
ですが、こうも言われそうです。わざわざ何時間もかけて、ガソリンを使って、高速道路に乗って運転して材料を買いましたね?しかも、3、4時間もガスを使って煮ましたよね?保存用の瓶はいくらでした?確かに、これを全て足せば、値段はかなり高くなるはずです。
では逆に聞いてみます。市販のケチャップを買った時、トマト農家さんの顔が浮かびましたか?ケチャップを一口食べた時、何時間もかけた苦労を思い出してニヤニヤしましたか?数カ月ぶりのケチャップの味に、涙が出るほど感動しましたか?
現代の都会の生活では、どうしても値段や手軽さだけで商品の良し悪しを考えてしまいます。そして、作るという面倒な作業も避けてしまいがちです。ですが、省いた時間と手間の中には、食べた時の感動を増幅してくれる何かも含まれていたはずです。その何かを確認できるのが、100マイル地元食なのかもしれません。
そう、このオムライスも、普段と違って見えるはずです。