©100マイル地元食
EPISODE #25
階段下の100マイル味噌蔵
北海道-道央エリア
7月
農家さんとの出会い
100マイル地元食で一番困るのは、普通の調味料が買えないことです。醤油のない刺身、お酢のない寿司、ケチャップのないオムライス。何とかしないと、塩と砂糖の味だけの料理が1年間続くことになります。
こうなれば、自分で作るしかありません。いろいろと調べた結果、素人にも一番作りやすいのは味噌のようです。味噌なら、大豆と塩、そして麹が手に入れば作ることができます。
作り始めてわかったこと、それは味噌は簡単に美味しくできるってこと。今では、我が家の階段下は味噌蔵になっています。
100マイル地元食の料理には、以前より長く時間がかかります。それは、すぐに旨味を足せる調味料が使えないからです。日本人なら当たり前のように、醤油や他の発酵調味料、ソースやケチャップが常備されていると思います。料理の味付けに醤油を入れれば、その風味と旨味で一瞬で美味しい料理のできあがりです。
調味料の多くは、旨味、つまりアミノ酸が豊富に含まれていて、すぐに料理に足すことができます。逆に、調味料が無いと、素材の中に隠れている旨味を、じっくり引き出さなくてはならず、料理に時間がかかってしまうのです。
北海道では、地元の調味料メーカーさんたちが、地元食材、特に大豆や米、麦を使った調味料を販売しています。でも、また問題は塩なんです。未だに、我が家から100マイル範囲内の塩を使った醤油、ソース、味噌は見つけられていません。そんなこだわりを持っている消費者なんていないからでしょう。
いつも通り、自分で作ることになりました。選択したのは味噌。材料は、大豆、塩と麹だけです。大豆は、留寿都のよしかわファームさんのものをたっぷり買いだめしていますので大丈夫。塩は、いつもの岩内の星の塩。麹は...これも幸運にもすぐ近くで見つけることができました。
ネットで探していると、近所に糀ファクトリーなるお店を見つけることができました。昨年10月にオープンしたばかりで、道産米を使った米糀、玄米糀など、古式製法にこだわった無添加糀を販売されています。ちなみに、麹と糀はどちらも”こうじ”と読みますが、糀ファクトリーさんの糀は和製漢字で、主に米糀に使われるとのこと。
材料がそろえば簡単、簡単、すぐに作って、味噌汁飲みたい。ですが、味噌は仕込んでから完成まで最低3か月、半年は置いておかないと美味しくならないと、本に書いてあります。そんなに待てません。
そこで頼ったのが、電機屋さんで売っている発酵器でした。家庭でも一晩でヨーグルトが作れるので、ヨーグルトメーカーとも呼ばれていますが、菌の発酵の力を使うのは味噌も同じです。材料をセットして、一定時間、温度が維持できます。味噌作りには60℃の高い温度が必要です。そしてタイマーで電源が切れる機能があると便利です。
まずは心配なので、500gの少なめの味噌から作ります。100gの大豆を18時間水につけてふやかします。それを圧力鍋で20分茹でると、親指と小指で挟んで潰れるまで柔らかくなります。大豆をバットに広げて粗熱をとる間に、糀の下処理をしておきます。
200gの米糀を買ってきます。200gの米糀、茹でてだいたい230gになった大豆、合計で430g。その12%にあたる52gの塩を使います。塊になっている米糀に塩を加え、米粒がほぐれるまで混ぜます。
粗熱をとった大豆と、混ぜておいた米糀+塩をよく混ぜます。このとき、大豆の形が完全になくなるまで潰すと発酵しやすく、溶けやすい滑らかな味噌になります。なかなか滑らかにならないので、我が家ではフードプロセッサーを使いました。ぼそぼそするときは、大豆の煮汁を加えてのばします。
滑らかになったペースト状のものを発酵器にセットして、60℃で24時間温めて、発酵を進めます。作業はこれだけ。24時間後にフタを開けてみると、しっかり味噌の香りがするじゃありませんか。こんなに簡単だったなんて。作ったその日から、美味しく食べる事ができます。ですが、ちょっと熟成が足りない若い白味噌です。
最初は、米糀と大豆、そして12%の塩で作りましたが、東北生まれ関東育ちの私からすると、少し甘すぎます。糀ファクトリーの方に聞くと、たんぱく質を多く含む玄米糀を使ったり、大豆の割合を増やすと、より旨味の濃い味噌になるとのこと。その分、完成まで時間はかかるそうです。塩味は塩の割合を変えて調整できます。
そして、発酵器での発酵が終わった味噌を、普通の味噌のように常温で置いておけば、生きている糀がさらに発酵と熟成を進めてくれます。これはやるしかない。いくつも保存用の容器を買い、子供が寝た後で、夜な夜な味噌作りを進めました。
今では、我が家の階段下は、見事な味噌蔵です。3か月、半年熟成させた味噌も食べてみたい。結局、教科書通り時間をかけてしまうんですね。