©100マイル地元食
EPISODE #191
【食材調達】ハンターさんから直接買う!えぞ鹿肉
100マイル内の友人から買った食材だけで作る挑戦最終日のラストディナーにも、お肉は欠かせません。北海道ならではのエゾ鹿のお肉を買うことにしました。鹿肉を食べたいと思ったきっかけは、あるハンターのお話に共感したからでした。
今回は、北海道の野趣あふれる鹿肉を始めて買ったお話です。
100マイル地元食の1年間の挑戦が終わる5月末の最終日には、特別なラストディナーを食べようと計画しています。
「この1年間で出会った人たちが作ってくれた食材だけのラストディナー」です。
夕食なのだから、お肉は欠かせない食材です。でも、これまでの地元の食材を探し求めた10カ月でも、なかなかお肉の生産者さんに会うことができませんでした。近所のスーパーでは、牛、豚、鶏も地元産が手に入りますが、そのずっと先にいる生産者にはほとんど会えないのです。
そんな時、思い出したのが鹿肉でした。鹿肉はハンターさんが撃って解体して販売しています。これなら生産者から直接買えるかもしれません。
我が家がある北海道は鹿の宝庫です。アイヌの民話では、ユク(えぞ鹿)は、ユク・コロ・カムイ(鹿を司る神)が地上に放ってくれた獲物と言い伝えられるほど、昔から豊かで重要な食料でした。
北海道に住んで地元の食材を探し歩いているのにまだ鹿肉を食べていない。なんてもったいないことをしていたのでしょうか。
昨年秋、私はとあるセミナーで、「むかわのジビエ」代表で女性ハンターの本川さんのお話を聞いていました。むかわとは、我が家がある札幌から南東に47マイル(76km)にある、むかわ町のこと。ジビエとは、フランス語で食材として捕獲された野生の鳥獣のことです。
本川さんのお話は、リアルな命のやり取りのお話でした。増えすぎたエゾシカが農作物を荒らしてしまうこと、多くの鹿が毎年駆除されていること、野生動物と人間の営みの境目で起きている綺麗事ではないリアルな現状が伝わってきます。
本川さんは、人間がエゾシカの命を奪うのであれば、できるだけ命の尊厳を守り、美味しく食べてあげたいと考えています。身体のどこを撃ち、どう解体すれば美味しい鹿肉にしてあげられるのか、生々しい命のやり取りの話の先に、鹿への深い愛情を感じました。この人が撃った鹿を食べたい。そう思っていました。
セミナーの後、勇気を出して本川さんと名刺交換をしていました。
「鹿肉を買わせてください。」どう買うのかもわからないまま、連絡を取りました。
「生の鹿肉の旬は晩秋から冬なんで、もう時期が遅いから売れる物が無いかも。」本川さんの返事に動揺します。
肉にも旬があるなんて考えたこともありませんでした。1年中スーパーの売り場に並ぶお肉に、季節ごとの差なんて感じたことが無かったからです。聞けば、冬は数カ月も雪に覆われてしまう北海道では、鹿たちは冬を越すために脂肪を蓄えるので、冬の数カ月間が美味しい時期だそうです。
今を逃せば、次に手に入るのは半年後です。少し無理を言って、残っていたブロック肉を買わせていただくことになりました。「初めて食べるなら、一番美味しい旬の時期に食べて欲しいんだけど...」そんな本川さんの想いに、申し訳ないと思いながらもまた共感します。
シンタマ、内モモ、外モモの3種類で、合計2.5kgの鹿肉。慣れてきたとは言え、我が家の買い物の仕方はだいぶ変わっています。
宅配便で送ってもらった鹿肉はワイルドな状態で届きました。しっかりとドライエイジングされた塊の鹿肉。お料理できる状態にするために外側の乾いた部分と筋を取り除きます。この時のためにホームセンターで買ったペティナイフで、自分の感覚だけを信じてトリミングしていきました。
中から現われたのは、野性味溢れる濃い赤色をした肉でした。しなやかでありながら弾力があって、野山を走り回っていたアスリートのような筋肉です。脂が少ない赤身肉のシンタマ、繊維が細かくて柔らかい内モモ、繊維が荒くて硬めの外モモ。同じモモ肉でありながら、三者三様の個性を持っています。
本川さんからは、繊細な鹿肉は火の通し方によって、ぜんぜん味が変わってしまうと教えてもらっていました。初めて手にした鹿肉をどう料理するのか、緊張しながらもワクワクしてきました。ラストディナーのために買った生産者の顔が見える肉、食べるのを我慢できそうにありませんでした。