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地元産!南茅部の本マグロ

EPISODE #18

地元産!南茅部の本マグロ

2017.6.29

食材調達,シーズン1

 前回、セリ場に並ぶマグロの中に、100マイル地元食ルールで購入できる南茅部(みなみかやべ)の本マグロを発見しました。探し求めた、”買える”マグロ。水産業界の専門家たちの力を借り、早起きをしたことで、ついに出会うことができました。ですが、セリに参加できない一般人は、直接買うことができません。

どうにか、このマグロを買うことができないか。広い札幌市中央卸売市場を駆けずり回った1時間の始まりです。

南茅部の大謀網本マグロ

 南茅部は、大謀網漁(だいぼうあみりょう)という巨大な定置網の1種の発祥の地です。1839年に、三代目飯田屋与五左衛門が始めた漁で、沿岸を回遊してきた魚が、遮るように張られた網に導かれ袋網に誘い込まれる仕掛けです。現在も、イワシ、ニシン、サバやサケ、時には本マグロが漁獲される現役の漁法です。

 札幌市場の特別室には、100本ほどのマグロがセリを待っていました。南茅部の本マグロは、10本以下です。マグロのセリには立ち会えず、終わった直後に特別室に駆けつけます。セリ落とされたマグロには、購入した仲卸が自分の物とアピールするための紙の札を貼り付けることがあります。そこには、青池という札だけがありました。

セリ落とした仲卸を探して

 青池水産という仲卸だとわかりました。私は居ても立ってもいられず、仲卸の店舗が並ぶ一角に急ぎます。札幌市場で仕入れられた魚介類が、それぞれの仲卸のブースに並んでいます。商品は新鮮そのもの。そして、ずっと奥にいったところに青池水産のブースがありました。

 ブースの中で数人の方が忙しそうに動いています。ですが、店頭には解体されたマグロが少し並んでいるだけで、セリ場にあった南茅部のマグロはありません。セリ落とされたマグロがすぐに届けられるわけではなさそうです。しかも、ここ仲卸ブースも、一般人が買い物してはいけない場所でした。

 100マイル圏内のマグロが目の前にいるのに、逃げて行ってしまう。そんな焦りを抱きながらその場を立ち去ります。

意外な場所であのマグロと運命の出会い

 この日はもうマグロを買えないのか、諦めかけていました。気分を紛らわすため、一般人でも買い物ができる、市場に隣接したさっぽろ朝市に行きます。建物の中には、魚屋や八百屋、乾物屋から寿司屋までがありました。価格も、観光客向けではないリーズナブルなものが多いです。当然、100マイル圏内の食べ物もたくさんあり、ここは買い物に使えそうです。

 マグロを販売している店舗もいくつかあります。その中の1つ、サワスイのショーケースを覗き込んだ時でした。あの南茅部の本マグロがありました。小ぶりのものが半身になって置いてありますが、確かに南かやべ産まぐろのカードが貼られています。

 色めき立ち、親父さんに話しかけます。「このマグロ、売ってますか?」

 今になって思えば、お店に並んでいるのだから当然売っています。

 しかし、親父さんは、必死な私をからかって言います。「自分で食おうと思ってる。」

 それでも食い下がってお願いする私に、ニヤりとしてお父さんが言います。

「しょうがないな。切り身にはしねえぞ。半身で13,000円だ。」

 魚としては初めて聞く高い値段に目の前が暗くなります。そこから一気に計算が始まります。半身は大体4~5kgぐらいあるでしょうか。ならキロ単価3千円ぐらい。国産本マグロだから妥当な値段だと青木君が教えてくれます。刺身にしたら我が家で10回分以上。1回1千円ぐらい。十分高級ですが理不尽な値段ではありません。

 やっと出会えた”買える”100マイル内のマグロ。一度深呼吸。息子の顔が一瞬浮かび、迷いが吹っ切れます。

「これ、もらいます。」勇気を出して言った言葉。震えていたかもしれません。お店の方は、私の気持ちを知ってか知らずか、大切に抱きかかえる様にマグロを取り上げ、紙で包み、ビニール袋に入れ、空気を吸い出して密封します。それを発砲スチロール箱の中に置き、低温を保つため、ビニールに入った氷を重ねます。丁寧なプロの仕事でした。

 時間はまだ朝7時ごろ。いつも通り町が動き出していました。こんなドラマが密かに起こっていたなんて誰も知りません。お父さん、まぐろ獲ってきたよ!家族はどんな顔で迎えてくれるでしょうか。

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