©100マイル地元食
EPISODE #227
【ラストディナー×お料理】子供の大好物と我が家らしい結末
私と妻が始めた1年間の100マイル地元食チャレンジ。3人の子供たちは、言わば巻き込まれてしまった側です。ごめんね、という想いも込めて子供たちが大好きになったメニューも作ります。心と思い出を込めて作った料理たち。美味しくできたでしょうか。
今回はラストディナー編の後編、子供向けメニューとディナー後の感想のお話です。
好きな刺身と言えば、マグロかサーモン。北海道に来る前はそれしか知らなかった長男(6)にとって、この1年間は目新しい地魚との出会いに満ちていました。南茅部の地元のマグロから始まって、黒ソイにヒラメに秋鮭、日高の紅神目抜と、一生分と言ってもよいほどの珍しい刺身を一緒に食べてきました。
最後の夜に食べる刺身は、サクラマスです。寿都町の大串さんと友人の青木君と一緒に、寿都湾の漁船の丸本丸に乗せてもらって、目の前で海から揚がるのを見た、あのサクラマスです。船上で丁寧に血抜きされたマスを港で受け取り、大切に持ち帰って私の包丁で三枚におろし、急速冷凍しておきました。
流水で解凍して、厚めに切って皿に盛ったら、我が家の初めての「Ocean to Table」のお刺身の完成です。レストランSIOの直営農場「Farmland農風景」で掘った「Farm to Table」の山わさびもすり下ろして、自家製の「垂れ味噌」を添えれば、我が家だけの特別なご馳走になりました。
長男に似て、いつの間にか好き嫌いが多くなってきた長女(3)ですが、お肉が大好きなのは変わりません。特に、塩だけのシンプルな味付けの鶏料理には目がありません。新得町の自動車学校「新得モータースクール」で育てられた新得地鶏をいつものカリカリ焼きにします。
新得地鶏のぎゅっと締まったモモ肉は何か所か切れ目を入れて、フライパンで強めの中火で皮から焼きます。皮からしみ出す脂で揚げるように焼いて、皮がカリカリになったらひっくり返します。弱火にして優しく火を通していく間に、香ばしく焼けた皮に、岩内町の金澤さんが作った星の塩をぱらりとかけます。
我が家では、カリカリ焼きには “お肉ご飯” と決まっています。石狩市の「はるきちオーガニックファーム」で鶏の解体をした時にもらった鶏ガラでスープを取ったら、旭川市の米農家「ぬまんち」さんのななつぼしを合わせて土鍋で炊きます。鶏肉と一緒に盛り付けて、カッコよく言えば、シンガポール名物の海南鶏飯、我が家なりに言えばお肉ご飯の完成です。
最後にメインの鹿肉の赤ワイン煮を仕上げます。参考にしたレシピ本には、お肉を先に取り出して、煮汁をさらに煮詰めてトロリとしたソースになったら、お肉にかけて完成と書かれています。でも、その通りに煮詰めてもしゃばしゃばのままです。それもそのはず、レシピ本をもう一度よく読むと最後にバターを加えてとろみを出すと書かれていました。
しかも、とろみが無いだけでなく、コクも弱く感じました。たぶん1日ずっと鹿肉を煮込んでいればコクが出るのですが、2時間ほどではまだ鹿肉の旨味が出きっていないのでしょう。更に煮込もうとしても、今夜のラストディナーには間に合わなくなってしまいます。これはどうしてもバターを入れたい。でも、我が家には生産者さんから直接買えたバターはありませんでした。
どうしたものか。たまらず妻と話し合います。このままラストディナーのルールを守って不本意なまま食べる?それとも、ルールは破るけど一番美味しく料理して食べる?こう問いかければ、答えは決まっています。我が家では、生産者さんから受け取った大切な食材を美味しく食べるのが、一番重要なルールです。たっぷりと地元のバターを入れてコクととろみをつけて、鹿肉の赤ワイン煮が完成しました。
1年間のチャレンジの最後に家族で囲む食卓。ずっと走り続けてきたこの1年間、ゴールの瞬間に何を想うのかな、もしかしたら最後は泣いちゃうかも。そんなことを考えながらラストディナーが始まりました。
旬の野菜のペポ和え、サクラマスの刺身、鶏のパリパリ焼きとお肉ご飯に、鹿肉の赤ワイン煮。意外なほどにゆっくりと落ち着いた時間が流れます。すっかり食べ慣れた地元の素材の味と、行き着いた最小限のシンプルな味付け。一口ずつ噛みしめるほどに静かに心が動く、そんな夕飯です。
足元に広がる半径100マイル(160.9km)の地元とのつながりを感じながら、多くの友人達が作ってくれた食べ物を、家族と一緒に食べる。もしかすると足りない物だらけなのかもしれませんが、私たちにとってはこれ以上無い完璧な食事になりました。
子供たちも、大好物の刺身と鶏肉に満足してくれた様子です。彼らが大人になった時に、今夜のディナーのことや、この1年間のことを覚えてくれていれば良いのですが。最後は自分たちで決めたルールを破ってバターを使ってしまったけれど、それも行き当たりばったりの我が家らしいのかもしれません。
そう言えば、さっきから妻がデザートを作っていました。オーブンから漂うやわらかな甘い香り。ラストディナーはもう少しだけ続きます。
寿都の船上活〆サクラマスの刺身 (4人分)
新得地鶏のカリカリ焼き (4人分)
鶏ガラスープのお肉ご飯(4人分)
えぞ鹿のすね肉の赤ワイン煮(修正版)(4人分)