©100マイル地元食
EPISODE #226
【ラストディナー×お料理】我が家が辿り着いた幸せな食卓
1年間に及んだ100マイル地元食のチャレンジも、とうとう最後の日を迎えました。「ラストディナーは、この1年で出会った友人達から買った食材だけで作る。」そう決めていました。友人と言う名の生産者さん達に支えられ、励まされ、そして多くを教えてもらったことへの感謝を込めてお料理をします。
今回は、ラストディナー編の前編、野菜料理とメインの鹿肉料理のお話です。
なぜ、自分から半径100マイル(160.9km)の範囲内の食べ物だけで生きるという、面倒なルールにも飽き足らず、ラストディナーのハードルをより高くしてしまったのでしょうか。その時の気持ちを一言で表現するなら、「仕返し」がちょうど良いのかもしれません。
1年前にチャレンジを始めるまでは、コンビニでランチを買い、時間が無ければファストフードを食べ、食べ過ぎて太ってはダイエットを繰り返すような「現代都会人の食生活」のど真ん中にいました。このままではいけない。そう思い立って、始めたのが100マイル地元食でした。
あの日からの驚きと感動に満ちた新しい体験は、私たち家族の食生活をがらりと変えてくれました。慣れ親しんだ無機質な繰り返しの日々を捨て、まだ見ぬ別の何かを求めて真っ暗闇に飛び込んだ我が家。今では、あの日の私たちが想像もしなかった、私たちなりの幸せな食生活の中にいます。
私たちが捨てた過去への「仕返し」。ざまあ見ろ。ラストディナーのルールを思いついた時、そんな見栄を張りたい気分が少しだけあったのかもしれません。
まず作り始めたのは野菜のメニューです。伊達市のEIKOグリーンのカブと、留寿都村のよしかわファームのアスパラガスと長いも、それに和寒町の和寒シーズのペポナッツペーストを使って、和え物を作ることにしました。
野菜をゴロゴロと大きめに切ったら、フライパンで焼き色を付けます。我が家で使っていた油は、友人の生産者さんから買ったものではないので、今晩は使えません。新たに買い替えた、油が無くても焦げ付かないフライパンを使って慎重に焼きます。
ペポナッツペーストと、幕別町の十勝ヒルズの “白いんげん豆の酢”、新ひだか町の太田養蜂場のハチミツ、新十津川村の金滴酒造の日本酒、八雲町の服部醸造の “オール八雲味噌” と岩内町の星の塩で作った自家製調味料「垂れ味噌」を使って、和えダレを作ります。そこに焼いた野菜を入れて和えれば、1品目の出来上がりです。
次に作り始めたのはメインの肉料理です。むかわ町のむかわのジビエの本川さんから買ったエゾ鹿のすね肉と、札幌市の藤野ワイナリーの赤ワイン、同じく札幌のレストランSIOの直営農場「Farmland農風景」の玉ねぎ “札幌黄” 、それに旭川市のはせがわファームのタイムを使って、赤ワイン煮を作ります。
鹿肉を、赤ワインとスライスした玉ねぎ、タイムに浸して、一晩マリネしておきます。鹿肉だけを取り出して軽く塩を振ったら、油をひいていない深めの鍋で焼き目をつけます。一度食べてクセになってしまったあの鹿の香りが再び花開きます。マリネした漬け液を入れたら、弱火でじっくり煮込んでいきます。
鹿と玉ねぎの旨味が赤ワインに溶け出して、それがまた鹿肉にしみ込みます。素材が持っている本来の旨味がお互いを引き出し合いながら、さらに濃縮されていくのがわかります。鍋から聞こえてくるポコポコという音を聞けば、目に見えるようにわかるのです。
鹿肉の赤ワイン煮は、まだまだ時間がかかりそうです。
すべてのメニューに、私たち家族と生産者さんの間で生まれたストーリーが詰め込まれています。何度もお会いして家族の付き合いをしてくれた農家さん。地元中を走り回っても見付からず諦めかけていた時に出会った老舗の調味料。地元の野山から直接届いたお肉。すべてが抱きしめたくなる思い出です。
それは、この1年間で私たちが出会った宝物たちを、宝箱から大切に一つずつ取り出して再会しているような気分。それは、誰が見ても素晴らしい高級食材などというものではなく、ごくごく個人的な理由で私たち家族にだけに意味があるメニューたちです。
誰かのためでは無く、誰かに用意された物でもない、私たち家族が大切にしてきた食卓。今夜のディナーは、家族と地元の友人たちと駆け抜けたこの1年間で、やっとたどり着いた一つの結論なのかもしれません。料理は順調に進んでいますが、まだ作りたいメニューがいくつかあります。ここまで付き合ってくれた子供たちにも大好きなお料理を作ってあげます。
➀旬の野菜のペポ和え (4人分)
②えぞ鹿のすね肉の赤ワイン煮 (4人分)