©100マイル地元食
EPISODE #205
【お料理】3日かけて挑む初めてのラーメン作り
100マイル地元食の挑戦も残すところあと1か月。まだやり残したことがありました。それは、麺からスープまですべて手作りする自家製ラーメンでした。麺を打って、チャーシューを焼いて、スープを煮る。長い3日間が始まりました。
今回は、ラーメン作りの前編、手間暇かけた仕込みのお話です。
風変わりな食生活を始めてからと言うもの、外食はほぼできなくなりました。そんな中、とにかく恋しくなった食べ物はラーメンでした。以前は、週2~3回は食べるほどラーメンが大好きだった私。いつか100マイル内の食材だけでラーメンを作りたい。そう考えていました。
でもずっとチャレンジができなかったのは、中華麺を打つのに必要な「かん水」が手に入らなかったからです。かん水は、麺のコシを出すのに欠かせない材料です。炭酸ナトリウムなどのアルカリ塩から作られるこのありがたい液体は、地元にはありません。
でも、諦めきれない私は、他の食材で代用できないか情報収集を続けていました。そこで見つけたのが「にがり」を使った中華麺の作り方です。にがりは、かん水と同じくアルカリ性で、グルテンができるのを助けてくれるので、麺にコシが出るのだそうです。
にがりと言えば、岩内町の海洋深層水から作られた星の塩と一緒に買っていました。これで材料は揃いました。なんとか作れるかもしれません。
中華麺作りには手打ちパスタの経験が役に立ちました。小麦粉は、札幌から北に64マイル(103.4km)にある留萌で作られた超強力粉の “ルルロッソ” を使います。いつもパスタに使っていて、どんな粉より強いコシが出せます。
玉子と水、にがりと塩を混ぜた黄色い液体を、ボウルの中の “ルルロッソ” に慎重に注いだら、ダマにならないように合わせます。ここからが大変。ぼそぼそとまとまらない生地をなんとかひと塊にします。ここで、水分を均等に行きわたらせるために1時間ぐらい寝かせます。
しっとりとなった黄色い塊を、大きなビニール袋に入れて足で
踏み、延ばしては折り畳むを10回繰り返します。初めは硬かった生地にしなやかな弾力が出てきたら、テーブルの上に打ち粉をして、麺棒で厚さ1cmぐらいまで延ばします。ここからはパスタマシーンを使って、厚さ2mmになるまで伸ばします。
薄く長く伸びた生地。すぐに切って麺にしたいところですが、さらに冷蔵庫で2日後まで寝かせます。気が遠くなりますが、この我慢でまたコシが増すのです。
翌日になって作り始めたのがチャーシューです。お肉が大好きな私にとっては、ラーメンの主役とも言える大切な具材。我が家の冷凍庫に眠っていた上富良野ポークのスペアリブを使って作ることにしました。
まず、スペアリブの塊肉から骨を丁寧に切り取ります。薄く平らになった肉をぐるりと巻いて、形が崩れないようにタコ糸で縛ったら、オーブンでじっくり焼きます。ぷつぷつと脂と肉汁が浮き出てきたら、今度は味付けです。
服部醸造の “オール八雲味噌” から作った醤油のような調味料の「垂れ味噌」と、新ひだか町の太田養蜂場のハチミツで作ったタレ。豚肉のロールに煮絡めたら、封ができるビニール袋に肉も煮汁も入れて、一晩、冷蔵庫で味を染み込ませます。垂れ味噌とハチミツと豚肉の甘美で幸せな香りでキッチンが一杯になりました。
下準備を始めて3日目、ラーメンが食べられるのはこの日の夕飯です。朝から始めたのが、ラーメンにとって一番重要なスープ作りです。ここでも、11か月の100マイル生活で少しずつ積み上げてきたことが役に立ちました。
スープのメインは鶏ガラとモミジ、つまり鶏の足です。石狩の「はるきちオーガニックファーム」で鶏をお肉にした時にお土産でもらったあの鶏ガラとモミジです。それに、余市の新岡鮮魚店で買ったニシンで作った干物も入れることにしました。
他にもチャーシュー作りで残った豚骨、りんご、玉ねぎ、余っていた長ネギの青いところ、ショウガとニンニクも入れます。この日のために、とうとう買ってしまった寸胴鍋に材料を入れて水を張り、アクを取りながら沸くか沸かないかギリギリの火加減で煮出していきます。
始めは透明だったスープは、海と山と里の恵みから煮出されたエキスで、いつしか澄んだ山吹色になっていました。食材を作ってくれた友人たちの想いと、我が家の思い出が溶け込んだ、深い旨味を感じるスープです。
それにしても、3日間も作業をしてもまだ食べられないとは、ラーメンはとにかく手間がかかる食べ物でした。サラリーマンをしていた時代、短いお昼休みでもすぐに食べられるラーメンは、私の中ではファストフードだと思っていました。
ラーメン屋さんは、客には見えないカウンターの裏側で、隠れた努力をしていたのでした。ああ、お腹減った。早くラーメンが食べたくなりました。