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EPISODE #114
【お料理】日高の海の銀聖の刺身
新ひだか町の東静内で初めて訪れた魚屋、高槻商店。クーラーボックスいっぱいに買った魚のうち、日高のブランド鮭“銀聖”を食べます。鮭を買ったら、長男が必ず食べたがるのが刺身です。いったいどんな鮭なのか、興味津々の料理が始まりました。
今回は、“銀聖”の刺身のお話。
秋に、産卵のために戻ってきた白鮭は、卵や白子に栄養を集中させるので、身は脂も少なく淡泊な味になります。白鮭を買う人たちは、卵でイクラを作るか、身で干物を作るばかりで、身を刺身で食べることは多くなさそうです。
秋の北海道でも、回転寿司で人気のサーモンは脂がのった養殖の輸入品。よく考えると不思議なことですが、普通の消費者なら気にせず、いつ食べても同じ味のサーモンに夢中です。“銀聖”は、白鮭の不名誉な評価を覆してくれるでしょうか。
高槻商店で買えたのは、体高がある、つまり背中からお腹までの幅が広く太ったオスです。お腹を開くと、大きな白子が入っていました。身は大丈夫か。決して安くはない、ブランド鮭です。不安に思いつつも三枚におろしました。
今年はたくさんの鮭を捌いてきたのでよく分かります。銀聖の身は、これまでのどの鮭よりも締まってしっかりしていました。それだけ、包丁の刃がしっかりと入って綺麗にさばくことができました。銀聖の身が素晴らしいのか、高槻商店の堀田さんの魚の取り扱いが素晴らしいのか、銀聖は最高の状態で三枚おろしになってくれました。
鮭は、寄生虫のアニサキスがいるので、冷凍庫で2日間凍らせます。これで虫は退治できます。魚を買ってきたらすぐに刺身が食べられると期待する長男(6)に、ちょうど内臓から出てきて泳いでいるアニサキスを見せて、説明します。これを食べちゃうと大変なんだよ。
高槻商店では、大きなマカジカのおまけに、小ぶりのイソカジカ2匹をいただきました。こいつは昆布締めの刺身にすると美味しい、堀田さんが教えてくれた食べ方でした。捌くのが難しいカジカを何とか三枚おろしにして、軽く塩をふり、濡らした昆布に挟んで冷蔵庫で1晩、それからこちらも冷凍させました。
十分な時間、凍らせた銀聖とイソカジカを解凍して、刺身にしました。捌いたばかりの時のプリプリとした身から、数日間寝かされたことで、柔らかくねっとりとした手触りになっています。これは、食感も良くなっているに違いありません。
銀聖の刺身は、白鮭らしい、ふわふわとした柔らかい身でありながら、ねっとりとしている、不思議な心地よい食感です。鮭臭さは微塵もなく、爽やかな海の香りが微かに感じられます。噛みしめるほどに、深みのある甘みと旨味がしみ出してきます。
そして、イソカジカの昆布締めです。こちらは対照的に、初めはコリコリとした歯触りでありながら、ねっとりともしています。淡泊な白身に昆布の旨味と香りが移っています。恐ろしい見た目の魚ではありますが、刺身の味は、優しく正直でした。
日高の海の魅力が溢れた刺身盛り合わせに、長男はもちろん、妻も私も大満足でした。
札幌にある我が家から100マイルの範囲内には、たぶん私が知らないだけで、銀聖のような、多くのブランド食材があるのだと思います。ですが、直接関わっている方たちを除けば、知っている方はあまり多くないはずです。それは、地元で食べられる機会が少ないからです。
全国のブランド食材は、ほとんどが東京や大阪に送られます。そこで評価が高まれば、一気に全国区の人気になります。漁師さん達が儲かって、また美味しい魚を獲ってきてくれる。それは素晴らしいことですが、地元の人間にとっては少し寂しいものです。
地元の消費者にも愛される食材であって欲しい。そう考えると、高槻商店さんのように、地元の食材の素晴らしさを、地元の客に食べ方も一緒に伝えてくれるお店は貴重です。近いからこそ、直接つながる仕組みが無い。それではもったいないのです。