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EPISODE #47
【十勝旅行】池田町鮮烈バーベキュー
ワイン城の観光案内人さんへのお礼もそこそこに、すぐに車に飛び乗った私たち。思い焦がれていた十勝の肉を求めて走り出しました。
どこまでも続く畑の緑。広く高い夏の空。幸運な出会いが今朝までの重い空気を一気に晴らしてくれました。今夜はバーベキューです。
今回は、黒豚と池田牛のお話。
まず向かったのは、池田町にある黒豚生産者さんの直売所、黒豚屋です。ワイン城の案内人が丁寧に教えてくれた道順にしたがって、車を走らせること10分。畑が広がる地帯にポツンと畜産農家さんのサイロが見えました。そして隣に、そのお店がありました。
黄色い目立つ看板があるからすぐわかるよ、の言葉通り、ド派手なお店がありました。プレハブ小屋のようなシンプルな建物です。ドアを開けると無人。池田町のお肉屋さんの光景が思い出され、少し心配になりました。すいませーん!大きな声で呼びます。
奥の作業場から出てきたのは、ヘアーキャップ、マスク、エプロンと真っ白のいで立ちのご主人さん。この方が、阿部農場代表の阿部さんです。地元だけでなく、道内の畜産業界では有名な黒豚師のようです。でも、ちょっと見た目が怖い。
バーベキュー用に、ロースとバラ肉をお願いすると、「わかった、ちょっと座って待ってて」とまた奥の作業場に戻っていきました。スライスする機械の音がかすかに聞こえます。注文を受けてから生肉を切ってくれています。
山盛りの豚肉を持ってきてくれた阿部さん。代金を支払って、豚肉を受け取ってからも、阿部さんとのおしゃべりは続きます。話題はずっと、子供のこと。私と豚の話をしていた時とは全く違う笑顔です。子供たちも楽しかったようで、帰る時には、「バイバイ!また来るからねー!」勝手に約束していました。
次に向かったのは、十勝平野の真ん中、池田牛が待っている帯広市です。ワイン城の案内人に最後の手段として紹介してもらった、池田牛の運営会社さんです。向かう車内で、妻が電話を入れます。先に通販として注文しておくためです。
運よく残っていた、バーベキュー用の角切りステーキ。そして、ひき肉もあるらしく併せて注文しました。30分後に受け取りに行きます!こんな通販の注文をするのは初めてでした。
帯広駅に近い、住宅街といった雰囲気の中心地に、その会社はありました。会社のビルの通りに面したところでは、直営のお肉屋さんをやっているそうですが、池田牛の取り扱いは通販のみ。普通の買い方ではないので、ここでは会社名と店名は伏せておきます。
表の店も定休日で閉まっています。裏に回って従業員さん用の入口がありました。なんか怖そうなので、妻に先に行かせます。ドアをノックして開けると、多くの従業員さんたちがお仕事中でした。こんなに忙しい時に、こんなに訳の分からない客が来て、さぞイライラされたでしょう。
ですが、注文した量の角切りステーキとひき肉は、しっかりと真空パックで小分けしてあり、領収書までばっちり作ってくれていました。とても温かい対応で、感激します。
やっと手にできた、黒豚と池田牛。いろいろな方たちの優しさとプロの仕事によって、やっと出会うことができました。愛おしい肉たちは、予定通り、バーベキューでいただくことにしました。
中札内農村休暇村フェーリエンドルフのコテージに戻り、森に突き出したテラスにバーベキューセットを置き、炭火をおこします。待ちきれない、私たち。娘(3)も、「まだー?」とウチワであおいでくれます。炭はほどなく赤くなり、準備が整いました。
まず、阿部さんの黒豚のロースから焼きます。5㎜くらいの厚めに切ってくれていますが、すぐに火が通ります。あふれ出す肉汁と脂。炭に落ちて、ジュ、と焦げると食欲を刺激する香りが広がります。
塩だけで食べる、池田町の黒豚。口に含んだ瞬間、ガツンと旨味が舌を直撃します。脂身はサクっとした歯応え。脂は多い方ですが、全くしつこくありません。不意に長男(6)が、このお肉モチモチしてるね、と言いました。確かに、赤身はモチモチとちょうど良い食感があります。長男にそんな表現を教えたことないんだけどな。
続いて、池田牛です。ブランド銘柄牛でありながら、サシはほどほどに、赤身が多い肉です。脂身が多い肉が苦手な私と妻にとって、これは嬉しい。3cmぐらいの角切り肉を焼きます。外側は焼き目を付けてカリッと、中はそこまで火を通したくありません。
頃合いを見て、こちらの池田牛も塩で食べます。ぎゅ、ぎゅ、という赤身肉の歯応え。肉汁がしみ出します。豚も素晴らしいけど、牛は牛だ。しみじみと味わう、久しぶりの鮮烈な牛肉の旨味。これはどこにもなくても探しに行ってしまう味です。
この瞬間、我が家の十勝旅行がやっと始まった気がしました。旅に来ても、100マイル地元食の楽しみ方は一緒なんだ。産地に自分の足で立ち、出会い、発見し、その土地の人と食材に惚れ込んで食べる、これが楽しいし、美味しい。明日もまた楽しみになりました。
※マイル数は、中札内のコテージからの距離です。