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EPISODE #122
【ストーリー】酪農という仕事はアリか? 後編
別海町中春別の中山農場での酪農体験では、仕事としての酪農について考えさせられました。就活中の学生、転職を考えているサラリーマンは感化されすぎないように気を付けてお読みください。
今回は、酪農という仕事シリーズの後編です。
酪農の仕事と都会でのサラリーマンの仕事を比べて、どっちがきつくないか?そんな後ろ向きな理由で仕事を選んでは、どちらを選択したとしても、いつか嫌になってしまいます。世の中に楽で簡単な仕事など無いからです。
酪農もサラリーマンも、職業として従事するなら、ストレスは少なからずあるし、歯を食いしばって越えなくてはならない壁が、必ずあるはずです。それなら、どの仕事を選ぶかは、より前向きな理由で決めるべきです。
では、酪農という仕事に、選ぶべき前向きな理由はあるでしょうか?中山農場の、勝志社長、お母さん、そして多くのスタッフの皆さんとお話をしていて、その理由は、確実にあると感じました。それは、仕事のやりがいと、その先にある夢です。
中山農場で働くスタッフは若い方がとても多いです。ベテランの各部署の責任者もいますが、スタッフの多くは20代ですし、10代の方もいます。現場では常に、先輩スタッフが後輩に仕事を教えています。そして今度は、教えられた後輩スタッフが、覚えたばかりの知識と技術を使って牛の世話をします。
「生き物が生き物を育てている。」
中山農場の現場を一言で表現すれば、こうなるでしょうか。世話をするスタッフも、世話をされる乳牛も、どちらも生き物です。若いスタッフが成長しなければ、牛を成長させることができません。働く者の立場から見れば、自分の成長が牛の成長に直結するということです。
年齢が近い先輩スタッフから、厳しくも温かく指導を受けながら、時に意見をぶつけ合い、確実に成長していく若者。日々の努力が、乳牛の健全な成長や、繁殖率の向上、搾乳量の増加と、結果に結びついていく。これは仕事を続けていく上で重要なやりがいになります。
勝志社長とお話をしていると、夢を語っている時の顔が、子供のように無邪気な笑顔だと気付きます。酪農家の本業である生乳生産を最新設備を導入してレベルを上げ、規模を拡大していくことを事業の中心に置きながら、中山農場をもっと若者が集まる牧場にしていきたいという夢です。
現代は、酪農自体を志す若者が少ないばかりか、牧場に就職してもすぐに辞めてしまうことが多くあるそうです。そんな状況の中でも、中山農場に来てくれた希望に満ちた若者たちには、酪農の楽しさを知り、チームで働くことの強さと大変さを学び、将来の経営者になっていって欲しい。そう考えています。
それだけではありません。中山農場で絞られた生乳を使ったチーズを作り、牧場に来てくれたお客さんに食べて欲しい。社長の夢は尽きません。中山農場に関わる人と牛、全てを幸せにしたい。酪農という仕事の先に、こんなにも素敵な夢があるのです。
作業の合間の休憩時間に勝志社長が私を誘い、絞られたばかりの生乳が入ったタンクのところに行きました。バルブを開け、持ってきたポットに生乳を注ぎ始めました。
「これは酪農家の特権なんだよ。」
搾りたて無殺菌無調整の生乳です。そのまま販売されることはほぼ無く、酪農家の自家消費用だけに許されているものです。見た目は少し黄色みを帯びていて濃厚な印象ですが、口当たりは驚くほどさらりとしていて、優しい甘みがあり、全く臭みがありません。
パックに入った普通の牛乳の匂いは、搾りたて生乳には無く、その後の調整過程でついてしまうものでした。この生乳を知ったら、牛乳嫌いの子供はいなくなるはず。それほどにこの0マイル牛乳の美味しさは衝撃的です。はしゃぐ私を見て、社長も一緒に笑顔になります。
農場体験の最終日の早朝、牛舎の裏にある牧草地の丘を一人登っていました。朝日を見るためです。草の葉に霜が降りるほどの寒さの中、あたりは少しずつ明るくなり、東の空が橙色に染まっていきます。防風林の木立の間からさす陽光。牧草地に連なる大小の丘を上から順に照らしていきます。
中山農場は、まだ北海道の雄大な自然が色濃く残る別海町にあります。すぐそこでキタキツネが鳥を追い、遠くの空にはタンチョウヅルが数羽飛んでいます。牧草地に流れる小川には、サクラマスが遡ってくるそうです。この自然だけでも、ここで働きたい理由になります。
昇り切った朝日を見届け、そろそろ戻ろうと振り返った時、工事中の最新式の牛舎が見えました。この牧場には、多くの若者の希望と葛藤、社長の想いが詰まっていて、今も成長し続けている。社長の夢はまだ途中なんだ。
自分の成長と夢の両方が実現できる職業に就きたい。仕事を選ぶ時こんなことを条件にする若者はどれだけいるでしょうか。私はすでに家族とともに、札幌でフリーランスという働き方を追求すると決め動き始めています。
だけどもし、最初の仕事を決めた学生時代のあの時に、中山農場に体験に来ていたとしたら、酪農の仕事を選んだかもしれません。それほどに、酪農という仕事は魅力に溢れ、身近に感じるものでした。この仕事は間違いなくアリです。素直にそう思いました。