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EPISODE #84
【ストーリー】My Last Sweetcorn
今年最後のスイートコーンは、帯広の一成さんの畑からでした。夏の十勝旅行の思い出。生のままかじったあの味。忘れられずにまた注文しました。
季節の移り変わりの中で味わったコーンの甘さ。今回は、旬のもう一つの意味を考えます。
ついこの間、紅葉が見ごろという秋の知らせを聞きました。それなのに、もう雪虫が舞い、数日前には北海道の屋根、大雪山が初冠雪。標高が高い峠道を越えるには、そろそろスタッドレスタイヤにしておかないと不安な季節になりました。
つい先日、夏の終わりを感じていたら、次にやってきた秋もあっという間に終わりが近づいています。北海道の季節の移り変わりは、本当に早い。100マイル範囲内で、どんな食べ物も手に入った素晴らしい時間が過ぎ去ろうとしていました。
北海道の夏を代表する野菜がスイートコーンです。7月ごろから初物が出始め、9月末から10月上旬に姿を消してしまいます。いっぱい買って、茹でて冷蔵庫にストックしておいて、小腹が減った時に食べます。溢れ出る甘い果汁。最高のおやつです。
一度口にして、やみつきになったスイートコーンがありました。帯広市の斎藤農場の一成さんのスイートコーンです。夏の十勝旅行の最終日、十勝ヒルズの吉村さんにご紹介いただいて、図々しくも出荷できなかったコーンをもらいに行った、あの一成さんです。
その後も、あの甘みと皮の柔らかさが忘れられず、両親や姉妹家族が遊びに来るのに合わせて、通販で20本買いました。朝ご飯の時に1本。夜寝る前についついもう1本。ゲストに食べさせるつもりが、ほとんど私と妻で食べてしまいました
そろそろ今年のスイートコーンシーズンが終わってしまう。そう思い立って、またネットで注文することにしました。一度出会った農家さんから、野菜を買い続ける時、ネット通販は本当に便利です。注文すると、一成さんはいつもFacebookでお礼のメッセージを送ってくれます。それがまた嬉しいんです。
「また注文ありがとうございます!実は、今日が最終収穫日でした。」
なんという幸運でしょうか。もう終わってしまったかと思っていたら、最後の最後で間に合いました。10本のゴールドラッシュ、金色に輝く宝物よりも貴重なコーンです。
「今朝採ったの、送っておきました。」
到着した箱を開けると、ヒゲがしっかり茶色く枯れた完熟のコーンが現れます。真夏の時よりも、少し小ぶりなのは、気温が下がって育ちがゆっくりになったからでしょうか。その分、2本多く、12本にしてくれているのが、一成さんの優しさです。
茹で方は、皮を剥いたコーンを、水から火にかけ、沸騰してから3分で終わり。いろいろ試した結果、この方法が一番美味しく食べられます。すぐに全部茹でておいて、ラップを巻いて冷蔵庫に入れておけば、5日ぐらいは美味しいままです。
もしかすると、もっと長く保存できるかもしれませんが、すぐに食べきってしまうので、試せたことがありません。
最後の1本は、朝食の時でした。最後の1粒まで美味しい。食べ終わった途端、しみじみと寂しさが湧いてきます。今年はもう一成さんのスイートコーンが食べられない。あと9か月待たないと、この幸せな朝食はやってこない。
季節の移り変わりは、新たな人と食べ物との出会いを運んで来ると同時に、慣れ親しんだ食材との別れも連れてきます。自然の摂理の中で育った食べ物を口にしている限り、同じものを毎日食べ続けることはできません。
四季の移ろいの中で、今、食べられるものを大切に食べること。だから美味しい。食べられなくなったことで、さらに旬の存在を感じました。この想いを忘れずに、来年、スイートコーンの新物を食べる時、どう感じるのでしょうか。