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9マイル菜園と0マイルハーブ

EPISODE #33

9マイル菜園と0マイルハーブ

2017.7.21

ストーリー,シーズン1

 100マイル地元食は、カナダで出版されたドキュメンタリー本「The 100-Mile Diet」をモデルに、日本版として挑戦している新しい食生活です。

 原作本では、カナダの西海岸のバンクーバーに住む2人が、家庭菜園をやっていました。我が家が挑戦する時も、家庭菜園は必ずやってみたい。そう考えていました。

 そして、もう1つやってみたかったのが、0マイルハーブ畑。自分で食べ物を生産してみる。それで、初めて見えてくることがあります。

原作者が住んだ街の家庭菜園文化

 少しだけ、原作本についてご紹介しておきます。カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバーに住むJ.B. MacKinnonとAlisa Smithの二人が、1年間、100マイル内の食べ物だけで生活する挑戦をしました。そして、2007年に、その様子をまとめたドキュメンタリー本を出版しました。

 バンクーバーは、家庭菜園が、市民の健康、市民による街づくりや教育に貢献すると考えていて、家庭菜園で野菜を育てる市民を応援しています。市内に100以上ある市民菜園で、誰でも家庭菜園を始めることができます。筆者の2人も、そのうちの1つで家庭菜園をやっていて、たびたびそこで採れた野菜が本に登場します。

 街や市民が一体になって、市民が土に触れる文化を盛り上げている。素敵な街です。私が、一時期住んでいた、同じブリティッシュコロンビア州のヴィクトリアは、もっと規模が近い町でした。それだけ市民の生活は、土の近くにありました。北海道の札幌も同じ雰囲気を感じました。移住先に選んだのはそのためでした。

札幌での家庭菜園作りは原野から

 札幌でも、市所有の貸し出し農園や民間の農地を借りることができます。ですが、せっかくの広い北海道で、お隣さんとの境を気にしながら野菜を育てるのももったいないなと考えていました。

 そんな時に助けてくれたのが、野菜ソムリエの先輩、淳一さんでした。淳一さんは、郊外に何十年も放ったらかしの原野があるから、貸してあげてもいいよ。そんなありがたい提案に、反射的に飛びつきました。その土地は、我が家から9マイル(14㎞)の距離にありました。

 私は、北海道の原野というのを、本当の意味で理解していませんでした。初めて踏み入れたのは、まだ雪が残る原野。がっちり根を張ったササ原、背の低い灌木に、見上げるほどの木々もあります。そのままでは、種を植える事さえできませんでした。

 家族や友人の応援を受け、原野を畑に開墾していきました。ササの根を抜き、日陰を作る木を切り倒し、土を深くまで耕していきます。やっとのことで畑になった時には、もうすでに種や苗を植える最後の時期になっていました。

 植えたのは、加工用トマト、ゴマ、さつまいも、100マイル範囲内では買おうと思ってもなかなか買えない野菜を中心に植えています。収穫できるまで数カ月もじっくり育てていかないといけません。今までも農業に近い仕事をしていました。ですが、本当の農業の大変さを体験したのはこれが初めてのことでした。

我が家の2階の0マイルハーブ園

 もう1つやりたかったこと。それは0マイルハーブ園です。北米では、原作のThe 100-Mile Diet が広く社会に受け入れられ、数多くの関連書籍が出版されました。この0マイルハーブ園のアイディアもその1つの中にありました。

 私は、全ての食料を自給しようと思っていません。生産者さんとの素敵な出会いが無くなってしまうからです。ですが、0マイルハーブ園のアイディアは面白いと思いました。つまり、使いたい時に、必要な分だけ、新鮮なハーブが使えるということ。うまくできれば、冬場も続けられるかもしれません。

 ホームセンターで買ってきたプランターに、ローズマリー、タイム、オレガノ、バジル、コリアンダー、パセリ、ルッコラに山椒を植えました。思い立ったのが遅くて、種から植えたハーブはまだ芽が顔を出したぐらい。こちらも収穫まではまだまだ時間がかかります。

自分で作るとわかる生産者さんの凄さ

 100マイル地元食のテーマになりつつある考え方があります。今まで疑いもしなかった目の前の食べ物の選択肢を、一度、横に置いておいて、自分から必要な食べ物を探すこと。それによって、本当に必要な食べ物とは何か、どれだけ必要なのか、その食べ物が本当はどれだけ美味しいのか、に気付かされます。

 9マイル家庭菜園と0マイルハーブ園も、今までの選択肢の外にあるものです。そして、そこにはまた多くの気付きがありました。野菜やハーブを作っている農家さんは、種や苗の植え付けの時期に気を配ります。早過ぎれば霜にやられ、遅ければ収穫の前に冬が来てしまいます。それだけ、農家さんは肌で日々の季節の変化を感じ取っています。

 土に触れ、その温もりで、季節がどれだけ進んだかを理解し、毎年異なる絶妙なタイミングで植えていきます。土に近い人ほど、本当の季節の移り変わりに気が付くことができる。こんなプチ農業体験を通じて、私の中で、農家さんへの敬意と感謝が日に日に増しています。

 会ったこともない誰かに任せるのではなく、自分の食べる物を自分で考えてみる。これだけで、日々の食生活をより豊かにしてくれる、感動や気付きに出会うことができます。

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