キャンプ場から始まる新しい冒険

新しい時代の訪れを祝う声がそこかしこであがり、一時のお祭りのような興奮が世間に広がる中でも、我が家はいつもの我が家でした。まとまった休みにはキャンプに行くこと。それはいつの間にか定着した我が家のルール。令和で初めてのゴールデンウィークのキャンプ場と言えど、我が家がある北海道ではぎゅうぎゅうに混雑することはありません。北海道壮瞥町(そうべつちょう)の洞爺湖畔にある仲洞爺キャンプ場は、陽の光で少し緩んだ風が湖面を静かに揺らし、頭上ではキタコブシの花が咲いています。

仲洞爺キャンプ場
静かな湖畔の林の中にある仲洞爺キャンプ場

1年前に「100マイル地元食」のシーズン1のチャレンジを終えてから、長男、長女、次男は、それぞれ7歳、4歳、1歳になり、妻と私もまた一つ歳を重ねました。テントをたてていると兄を見習うように手伝ってくれる子供たちの姿を見て、妻と私が選択した少し変わった人生もこの地にしっかりと根付いたような気がしました。北海道に移住して5回目の春。我が家が次のステップに進むには、今がちょうど良いタイミングかもしれない。そう考えていました。

今日からまた1年間の「100マイル地元食」チャレンジを始めよう。

すっかり現代都会人の普通の食生活に戻っていたこの1年間。そんな便利な日々に特に不満がある訳ではありません。食べたい時に食べたい物を食べられる。少しの退屈さに目をつむれば、そう悪い生活ではありません。でも、ふとした瞬間に鮮明に蘇るのです。あのチャレンジの興奮。地元の食べ物だけに縛られる不自由や誰にも理解されない苦労でさえも愛おしく、生活の中心にある食事の感動に日々のすべてがリンクしているような充実感に満ちていました。実際に体験した私たちだけが知っている喜びは、今も私たちを掴んで離さないのです。新しい時代の幕開けを都合良く、ごく個人的なチャレンジ再開の言い訳にして、また我が家は前に進み始めました。


ルールはどうする?感動するための新要素

チャンレンジを再開すると言っても、頭の痛い問題がありました。ルールをどうするかです。

「自分を中心に半径100マイル(160.9km)の範囲内で、生産、加工、調理された食べ物だけで生きる。」

このメインルールはそのまま大切にしますが、シーズン1では多くのサブルールや例外ルールを追加していました。すべてのルールを引き継いでしまえば、結局は同じ食生活を繰り返すだけです。それでは面白くありません。新しい冒険には、新しい苦労や発見が不可欠。でなきゃ新たな感動が味わえません。

「どうやったらまた面倒くさいルールにできるかな。」

一人で難しく考えすぎてしまう。私の悪い癖です。そんな私の雰囲気を敏感に読み取ったのか、妻が言います。

「現実的で、誰でもちょっと背伸びしたらチャレンジができるルールにしたいな。」

お互いの実家から離れた土地で、やんちゃ盛りの子供3人を育てるのは、並大抵の労力ではありません。子供たちのお世話を優先的にしていれば、あっという間に一日が過ぎてしまいます。そんな日々の中で、何百キロも運転して食材を買いに行き、すべての料理を手作りしている時間はありません。ありがたいことに、私のコンサルタントとしての仕事も忙しくなってきました。妻の言うことも一理あります。

美しい洞爺湖でゆったりとした時間を過ごす
美しい洞爺湖でゆったりとした時間を過ごす

100マイル地元食生活をより一層楽しみながら、ちょっとだけ便利で現実的な暮らしをする。そんな都合の良いルールを考えないといけません。そこで選んだテーマが「外食」でした。外食を例外のものとして、後ろめたく感じるのではなく、100マイルルールの中で楽しむにはどうしたらいいか。ヒントは、お正月に行った「瀬戸内・四国旅行」の中にありました。すすきののパブで飲んだ一杯のレモンサワーに感動し、レモンの産地を求めて瀬戸内海の岩城島(いわぎしま)に行きました。そして、旅先で食べた「鳴門うどん」に感動し、旅先から100マイル内の食材だけで手作りで再現したのです。

外食は世界を広げてくれる入口になる。よし、外食は条件付きでOKにしよう。

新サブルール: 外食ルール

キャンプの間に食べる食材は、できるだけキャンプ場近くで探すことにしました。5月になったと言っても、ここ北海道では桜が咲いたばかりのやっと春めいた頃です。野菜は雪が少なく温かい太平洋側でしか採れません。洞爺湖の周りには、壮瞥町(そうべつちょう)、豊浦町(とようらちょう)、それに伊達市(だてし)があって、寒い時期でも野菜を育てています。直売所巡りは、新しい季節の訪れを肌で感じられる素晴らしい買い物方法です。

直売所には季節の山菜や葉物野菜が並んでいます
直売所には季節の山菜や葉物野菜が並んでいます

直売所をいくつも回る間の車内でも、新ルールの話し合いは続いていました。外食を無条件に認めてしまえば、どうせまたファーストフード店に入り浸ることになります。「四国・瀬戸内旅行」の感動をもう一度体験するために考え出したのがこのルールでした。

シーズン2サブルール①:外食ルール

  1. 食材1品の100マイル内の生産者に会えれば、外食してもいい。
  2. メニュー1品を100マイル内の食材で再現できれば、外食してもいい。
  3. 1も2も該当しない外食は、同額の “罰金” を支払う。

1つ目のルールは、すすきののレモンサワーの埋め合わせに、瀬戸内海の岩城島まで旅行した思い出から考えつきました。ですが今回は、利用した外食店から100マイル内の生産者さんに限定します。後日会いに行く気があるなら地球の裏側のメキシコ産のアボカドでも食べられるとなると、100マイル地元食ではなくなってしまいます。このルールをうまく使えば、すでに友人になっている100マイル内の生産者の食材が使われている店にも行けます。外食をきっかけに新たな生産者に出会うか、友人の生産者をきっかけに新たな外食店を発掘するか。まさに私たちが欲していた新ルールです。

2つ目のルールは、「鳴門うどん」を旅先の食材だけで再現した思い出からヒントを得ました。“必要は発明の母” ならぬ、“必要は食材発掘の父”。探す気になれば案外新しい地元の食材や生産者さんとの出会いがあるかもしれません。それに好きになったメニューを地元の食材で再現することで、外食をしたことの罪悪感は少し薄まるかもしれません。ルール1と2は、外食を積極的に楽しむためにぴったりの新サブルールになりそうです。

問題は、3つ目のルールです。これこそが妻と私の数日にわたる綱引きの産物です。忙しい日常の中で、必ず外食で済まさないといけない食事があるはずです。そんな時に、生産者がとか再現がなんて言ってられません。ハンバーガー屋さんのレジで、フライドポテトの産地を聞いたり、再現するためにパティの中身を聞いてる姿を考えるとゾッとします。現代都会人というもの、忙しい時は諦めて外食をするしかありません。だけど自由にとは言いません。同額の “罰金” という呼び名の貯金をします。1年間でどれだけのお金が貯まるか、使い方をどうするか、何もわからないまま恐ろしいルールを付け加えてしまいました。

考え終わったら美味しい物を食べよう

キャンプの夕食で作ってみたいメニューがありました。それが豚塊肉のローストです。チャレンジのシーズン1で、川辺のバーベキューで偶然できた、柔らかで肉汁たっぷりのローストをもう一度再現したかったのです。あれから2年近くの間、我が家のキッチンでも何度も塊肉のローストには挑戦してきました。焼き方のポイントは2つ。まず、表面にカリッと香ばしい焼き目をつけること。次に、中にはじっくりゆっくり熱を加えて固くしないことです。

家の冷蔵庫から持ってきた上富良野ポークの肩ロース肉の塊を、まずは強火の炭火で一気に焼きます。30秒間ジュッと焼き網に焼きつけたら、サイコロを転がすように一面ずつ返して、すべての面に焼き色をつけます。次第に溶け出した脂が滴り落ちて、大きな炎が肉を包み込むようになります。この直火がスモークのように香ばしさをまとわせてくれます。次はゆっくりと中まで火を通します。肉の重量の1.2%の塩とその半分の砂糖を混ぜて塊肉の全面にまぶし、アルミホイルを2重に巻きます。そして火の準備です。バーベキューコンロの中の炭を片側に寄せて、炭が無い場所を作ります。焼き網を戻して、炭が無い場所の上に肉を置きます。肉には斜め下の遠くから優しく熱が届くようになります。

表面をこんがり焼いた豚の塊肉
表面をこんがり焼いた豚の塊肉

ここから難しいのが焼き上がりのタイミングです。ホイルの中は目では見えないので、触った感触で判断します。肉をぐっと圧すと、生の時はタプタプと水風船のようですが、表面を焼くと周りが固い湯たんぽのようになります。そして中心まで熱が通ると、弾力のあるゴムボールのようになります。肉の向きをくるくる変えながら30分、いや1時間?手の感覚だけを頼りに焼き上がりを見極めます。もう焼けたなと思っても慌てないで。火から下して10分ぐらい待ちましょう。肉汁が落ち着いて切っても流れ出ないようになります。子供で食べやすいように薄くスライスして、ホイルの中に少しだけたまった肉汁をソース代わりに絡めたら、しっとり柔らかな豚塊肉のローストの完成です。

豚肩ロース塊肉のロースト
豚肩ロース塊肉のロースト

騒がしい世界のすべてが遠ざかり、静かな落ち着いた時間が流れるキャンプの夜。新しいルールが決まったことで、やっとほっとした妻と私は、シーズン2での最初の外食を何にするか考えていました。

「ちょっと食べたい物があるんだよね。約束があってさ。」

この時期にしか食べられない地元の旬の味。北海道に新しい季節の到来を告げる、新しい生命を味わう料理です。必ず食べに行きますと約束をしていたのは、シーズン1にも何度も登場してくれた寿都町(すっつちょう)の大串さんでした。つまりそれはとびっきりの海の幸。明日は、大串さんが待つ場所に行きます。初めての外食の舞台へ。

仲洞爺キャンプ場から見る夕日
明日はまた素晴らしい体験が待っています

お料理レシピ

豚肩ロース塊肉のバーベキューロースト(4人分)

  • 豚肩ロース 600g 上富良野町 99マイル
  • 塩 7g 岩内町 38マイル
  • 砂糖 3g 伊達市 10マイル

※マイル表示は仲洞爺キャンプ場からの距離

  1. 炭で火を起こして強い火力を作る。
  2. 塊肉の30秒焼いて転がすのを繰り返す
  3. 全面に焼き色がついたら火から下す
  4. 塩と砂糖を混ぜて全面にまぶす
  5. アルミフォイルで2重に巻く
  6. 炭を片側に寄せて、下に炭が無い場所で焼き、たまに向きを変える
  7. 肉の感触がタプタプからグッグッになったら火から下す
  8. 10分ほど待って肉汁が落ち着いたら切って完成