あの魚もこの魚も食べたい。新しい魚や地元の漁の歴史に触れたことで、食欲が爆発しています。渾身の手料理が並んだ食卓に、素敵な飛び入りゲストが参加してくれました。素敵すぎて、やきもちを焼いてしまうほどに。

今回は、水産ウィークの5話目、ホームパーティーと爽やかな風のような男のお話です。

 

お魚ディナーに突然のゲスト

よいち水産博物館の見学と新岡鮮魚店での買い出しを終えて我が家に戻ると、休む間もなく夕飯の準備に取りかかります。明日の夕方帰ってしまう青木君が、我が家で夕飯が食べられるのはこの夜が最後です。買って来たものはしっかり食べ切らないといけません。品数は自然と多くなっていきます。

そんな時、青木君から思いがけない相談がありました。

「築地で一緒に働いている若者が北海道旅行中で夕飯食べに来たいって。」

妻も私も子供たちも、どちらかと言えば人見知りです。友人が増えるのは素敵な事ですが、初めて会う人が我が家に来るとなると心の準備が必要です。

「いいけど、どんな人なの?」「若い男で遊び人。何も気を遣わなくていいよ。」

そう言われても、せっかく来てくれるのだから、ちゃんとおもてなししてあげないと可哀想です。

「どんな食べ物が好きなの?」「飲食店でも働いててすごい食通。」

聞かなきゃよかった。さらにに緊張してきました。

 

日高の海の幸を料理する

遊び人の食通が来るのはまだ先。今は料理に集中することにします。

東静内の高槻商店で買ったコウジンメヌケの頭の半分で、アラ汁を作ります。昆布と鮭節の出汁で、先に湯通しして水洗いしておいたアラを煮ていきます。身がとろりとしてきたら、大根、人参、長ネギを入れて、服部醸造の “オール八雲味噌” で味付けしたら完成です。

紅神目抜のアラ汁
紅神目抜のアラ汁

次に作ったのは、魚介類の濃厚スープ、ブイヤベースです。同じく高槻商店で買っていた真ガレイと大粒のアサリに白貝、新岡鮮魚店で買った甘エビも使います。まずは真ガレイのアラと、小さく刻んだトマトと玉ねぎ、ニンジンを圧力鍋で煮てスープを取ります。

フライパンで真ガレイの皮目を焼いたら、2種類の貝と甘エビ、小粒の玉ねぎ、マッシュルームも入れて、濾した真ガレイのスープをたっぷりかけて煮込んでいきます。100マイル内の魚介類が持っている旨味が全部溶け出した、世界で一番幸せなスープの完成です。

東静内の真ガレイのブイヤベース
東静内の真ガレイのブイヤベース

 

モテ男の登場

青木君が、メヌケの兜煮の味付けに手こずっている頃、噂の友人がふらっと現れました。名はセイトウ君、歳は二十歳を過ぎたばかり、長めの髪にイマドキのオシャレな服装です。青木君と私とは正反対のイケメンでした。警戒する私をよそに、セイトウ君は柔らかい物腰で挨拶をしたと思うと、華麗に腕まくりをしてキッチンに向かいました。

「これが噂のコウジンメヌケですか!?」

彼の興味はすでに料理に移っています。なかなか味付けが決まらなくて、という青木君の話を聞くと、彼は慣れた手つきで味見をします。

「うん、お醤油あります?」

我が家に着いて、ものの数分、彼はすでに場の雰囲気に馴染んでいます。こんな人間がいるんだな、と感心させられます。吹き抜ける風のように自由ですが、心地良いリズムのようなものがあって嫌な気がしません。

初めて会った人にはまず心を開かないはずの長女(3)も、もうすでにセイトウ君にくっついてお気に入りのおもちゃを紹介しています。恐るべき天然モテ男の実力です。

 

渾身の料理の数々に心奪われる

まだ残っていたコウジンメヌケの身は、ガスバーナーで皮目を炙った焼き霜造りと、塩焼きにしました。これでおもてなしの準備は完了です。家族と青木君、そしてセイトウ君の賑やかなディナーがやっと始まりました。

紅神目抜の焼き霜造り
熱を加えることでメヌケの旨味が解放される

アラ汁は、甘みのある脂がほろほろになった身と相まって、濃厚な味わいです。具だくさんのブイヤベースは、海をそのまま煮詰めたような豊かで複雑な味がします。次にメヌケのお造りと塩焼き。やはり火を通したメヌケは旨い。他の魚では到底かなわない存在感です。

青木君とセイトウ君が作ったメヌケの兜煮はというと、骨以外の皮、身、唇、目玉のすべてがプルプルのゼラチン状に煮上がっています。煮詰められた甘辛の煮汁を絡めれば、最高のご飯の友になります。

紅神目抜の兜煮
青木君とセイトウ君が作った紅神目抜の兜煮

 

吹き去った風の後で

すでに長年の友人のように、一緒に食事を楽しんでいるセイトウ君。彼は、コウジンメヌケの兜煮で、3合炊きの土鍋ご飯を平らげてしまいました。こんなにたくさん食べてくれると、料理した者としてすごく嬉しい。こいつ、なかなか良い奴だな。いつの間にかそう感じていました。

子供たちが寝た後も話が弾んで、すっかり遅くなってしまいました。そろそろ帰ると言うセイトウ君を皆で見送ります。彼の北海道旅行が良いものになればと祈るばかりです。

彼が風のように立ち去った後、妻がぽつりと言いました。

「セイトウ君、また来てくれないかな。お皿まで全部洗ってってくれたんだよ。」

妻よ、お前もか。何気ない振舞いだけで周りを虜にしてしまう爽やか男のセイトウ君。次に来る時は、もう少し警戒してしまいそうです。

 

材料とレシピ

紅神目抜の兜煮 (4人分)

  • 紅神目抜の頭 半分 静内 77mile
  • 日本酒 適量 新十津川 45mile
  • 砂糖 適量 伊達 45mile
  • 垂れ味噌 適量 自家製
  1. メヌケの頭に熱湯をかけて、冷水で残ったウロコなどを掃除する
  2. 鍋に頭を入れて、酒、砂糖、垂れ味噌で薄めに味付けをして煮る
  3. 煮汁を頭にかけながら20分ほど煮詰めていき、火が通ったら完成

※調味料の分量は、魚に詳しい友人と爽やかなイケメンを呼んで調節してもらってください。

 

海そのままのブイヤベース (4人分)

  • 真ガレイ 1匹 静内 77mile
  • 水 2リットル 札幌 1mile
  • 玉ねぎ 1玉 壮瞥 40mile
  • トマト 1玉 壮瞥 40mile
  • ニンジン 半分 伊達 45mile
  • ローリエ 1枚 仁木 29mile
  • 米油 少々 深川 35mile
  • ニンニク 1片 伊達 45mile
  • アサリ 6粒 静内 77mile
  • 白貝 6粒 静内 77mile
  • 甘海老 10匹 小樽 19mile
  • 小玉玉ねぎ 5玉 壮瞥 40mile
  • マッシュルーム 帯広 95mile
  • ワイン 100cc 藤野 7mile
  • 星の塩 15g 岩内 40mile
  1. 真ガレイのウロコと頭、内臓を取り、五枚おろしにする。
  2. 真ガレイの頭と骨を、湯に入れてひと煮立ちさせたら、水道水で汚れを洗う。
  3. 圧力鍋に水をはり、2のアラ、小さく切った玉ねぎとトマトとニンジン、ローリエを入れて、圧力をかけて20分煮る。
  4. 3の火を消して圧力が下がったら、ザルでスープだけを濾す。
  5. フライパンに米油をひき、弱火でニンニクを炒めて香りが出たら、中火にして真ガレイの身の皮目を焼き、ひっくり返す。
  6. 5に、アサリ、白貝、甘えび、半分に切った小玉ねぎとマッシュルームを並べ、4のスープ、白ワイン、塩を入れて、貝の口が開くまで煮込んだら完成。