直感を信じて再び訪れた増毛の「佐藤健一果樹園」。お昼休みに食べたあるお弁当にも大切な気付きがありました。それは、労働の対価ではなく、感謝や信頼の証に感じられました。

今回は、直感を信じて行動した先にあった私が「食」に感動する理由のお話。

 

再び訪れた果樹園

増毛の果樹園でリンゴの苗木を植えるお手伝いをした翌日、私は再び同じ道を北に向けて走っていました。前日に植え終わらなかった苗木を、今日もまた植えるためです。

「明日もまた手伝いに来て」とは言われていませんでした。でも、もう一度、増毛に行けば何か良いことがある。そんな直感を信じて、一人、今日も行くことにしたのです。

昨日と同じ「佐藤健一果樹園」に、昨日と同じ増毛の皆さんが集まっています。「え、また来たの?」と驚きが広がった後、「助かるわぁ」と喜びの声に変わっていきます。さあ、作業開始です。

リンゴの苗木から伸びる新芽
リンゴの苗木から伸びる新芽

 

数十年の農作業を考えて苗木を植える

重機で一列に掘られた穴に、土に混じる石をうまく使って垂直に鉄パイプを固定したら、その脇にフジやグラニースミスのリンゴの苗を傾かない様に真っ直ぐに植えていきます。

佐藤健一果樹園のリンゴ植栽
真っ直ぐになるよう慎重に植えていく

1本植えたら、また次の穴へ。パートで来ている地元のお母さん達は、70代の方もいます。私はできるだけ力仕事を引き受けて、繊細な作業はお願いすることにします。

列を作って曲がらずに真っ直ぐ植えること。穴を埋め戻した時に、地表に石の頭を出さないこと。その後の数十年の農作業のやり易さまで考えて作業をします。農業は、深い思慮に満ちたクリエイティブな仕事です。

 

お弁当と新たな例外ルール

陽も高くなって、そろそろお昼ご飯の時間。皆さんは家に戻って食べるようです。そんな時、佐藤さんが「今日もありがとうございます。お昼にどうぞ。」と、地元のお店で買ったらしいお弁当と缶コーヒーをくれたのです。

100マイル地元食ルールがあるから食べられません。」

そんな無粋な言葉が喉まで出かかって、また飲み込みました。このお弁当は食べたい。急遽、新たな例外ルールを作ることにしました。

ご厚意ルール:

ご厚意でいただいた食べ物は、100マイル範囲外のものでも感謝して食べる。

増毛港とお弁当
お昼にといただいたお弁当

しばし暑い果樹園を離れ、涼しい海風が吹き抜ける漁港の岸壁でお弁当を食べることにしました。ご飯の上に梅干し、たっぷりの揚げ物とおかずが入ったごく普通のお弁当です。一口食べるごとに、疲れた身体に優しくしみ込んでくるのでした。

 

お弁当と100マイル地元食の共通点

何か素敵なことが起こる、そんな直感を信じて増毛まで来たことで、佐藤さんとの間にできた素敵な関係。このお弁当はその証でした。それはもはや、ただのお弁当ではなく、この1年間追い求めてきた100マイル地元食にも負けない、心が揺さぶられるご馳走でした。

何を食べるかではなく、どんな「食べる」時間を過ごすかを大切にしたい。恐らくは100マイル内の食材がほとんど使われていないお弁当は、私がどんな「食べる」時間に感動するのかを教えてくれました。

この日、夕方まで作業しても結局、苗木は植え終わりませんでした。でも代わりに得たのは、農家さんとの信頼関係と数年後に食べられる世界に一つだけの自分で植えたリンゴ、それに新たな例外ルールでした。

増毛佐藤健一果樹園の佐藤さん親子
佐藤健一さん(右)とお父さん(左)

こんな日々がいつまでも続いて欲しい、ゴールが近づくにつれて、そう思うことが少しずつ増えているのを感じていました。