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【水産ウィーク×食材調達】幻の深海魚コウジンメヌケ

EPISODE #195

【水産ウィーク×食材調達】幻の深海魚コウジンメヌケ

2018.5.17

食材調達,水産ウィーク

高校からの友人、青木君を招いての2度目の水産ウィーク初日。きまぐれな春の嵐で大荒れの海を横目に見ながら、最初に向かったのは日高のコンシェルジュがいる魚屋さん、高槻商店でした。あの店なら何とかしてくれる。そんな頼りになる存在です。

今回は、日高の高槻商店で出会った、幻の高級深海魚のお話です。

 

頼りになる日高の魚屋、高槻商店

2度目の水産ウィークは3日間だけの短期決戦です。我が家の食卓に、この10カ月でどれだけ地元の魚が並ぶようになったのかを青木君に体験してもらうため、初日から引っ張り回します。まず向かったのは、太平洋側の日高エリアの東静内にある魚屋さん、高槻商店です。

この店は、六本木で寿司屋をしていた堀田さんが地元に戻って知人から引き継いだ、異色の魚屋さんです。日高のブランド鮭の “銀聖” や、地元で愛されるアブラザメの美味しさを教えてくれたのも堀田さんでした。私にとっては、訪れる度に新しい驚きと感動をくれる特別な場所です。

堀田さんと金子さん

高槻商店の堀田さん(左)と金子さん(右)

私のような少し変わった消費者ではなく、外の世界から来た消費者の目にも高槻商店は素晴らしいと映るのか、青木君を連れて行って確かめてみたかったのです。堀田さんには、前日から「明日、友達連れて行きます。」とメッセージを送っていました。

 

紅色の特別な魚

東静内の浜辺を背にして建つ高槻商店。今日はいつにも増して多くの干物が海風に揺れています。

高槻商店名物の干物

高槻商店名物の海風で乾かした自家製の干物

「こんにちは。また来ました。」「あ、いらっしゃい!」

簡単に青木君の紹介を済ますと、堀田さんはニヤリとして中に迎え入れてくれました。なんだか自信がありそうです。店に入って右に目を向けると静内の地魚が並ぶ平台。何かを見つけた青木君が、興奮気味に声を上げます。カレイやカジカの真ん中に、どっしりと大きな赤い色をした魚が置かれていました。

赤い魚

地魚の中にでんと置かれた赤い魚

「うわーこれ、メヌケですか?」と青木君。「はい、珍しく水揚げあったんですよ。」と応える堀田さん。私には見たことがない魚ですが、2人の会話を聞く限り、知る人ぞ知る珍しい魚のようです。「紅神目抜」と書かれた紙が貼られています。コウジンメヌケ、なんとも仰々しい名前が特別な魚であることを教えてくれます。獲れる数が僅かでとても希少な魚でもあります。堀田さんの余裕の表情の訳はこの魚でした。

正式な名前はオオサガ。200m以深に生息する深海魚で、時には1000mより深くにいることもあります。深海から引き上げられる際に、水圧差で目が飛び出すのでメヌケと呼ばれています。

 

目が飛び出るほどの超高級魚

青木君と私は、別の理由で目が飛び出しそうになっていました。それは、この魚の値段。kg当たりの単価が国産本マグロより高い上に、1匹で8kgもありました。(興味がある方は調べてみてください。)堀田さんによると、先に売れたメヌケは、牧場主さんが、育てた競走馬が大きなレースで勝ったお祝いに買われて行かれたそうです。やはり、特別な魚です。

魂を抜かれたように呆然として、店の外に出た私たち2人。メヌケを買うかどうか相談します。水産ウィークが始まっていきなり訪れた、ピンチのようなチャンス。でも、勢いで買うにはあまりにも高い値段。タメ息ばかりで話が前に進みません。

そんな私たちを見かねてか、堀田さんが思いがけない提案をしてきました。

「半身だったらどうですか?残り半分は私が買い取って自分で食べますので。」

この提案で、雲よりも高くにあったハードルが、霞んで見えるぐらいまで下がってきました。

 

一生に一度の魚を豪快に買う

「このメヌケ、今日諦めても、いつか食べられるよな?」弱気になった私が青木君に聞きます。

「いや、今日を逃したら、一生食べられないかもしれない。」この言葉で、私たちは腹を決めました。半分ずつ出し合って半身を買うことにしたのです。

コウジンメヌケと青木君

超高級魚に少しおかしくなった青木君

堀田さんが軒下の作業場でメヌケを捌いてくれます。両手で抱えるほど大きな超高級魚を、手際よく三枚おろしにしていきます。無駄のない綺麗な仕事にしばし目を奪われます。堀田さんの包丁さばきもまた、この店の魅力の一つです。

堀田さんの包丁さばき

きれいな包丁仕事が見られるのも高槻商店の魅力

堀田さんは、約束の半身とおまけに頭までつけてくれました。私たち消費者にとって一生に一度出会えるかどうかの特別な魚を、これまた特別な魚屋さんと半身ずつシェアして食べる。この店は、青木君と私の期待のはるか斜め上で応えてくれました。

気まぐれな嵐の先で夢のような時間を過ごした私たち。我が家への帰り道、すっかり寂しくなった財布の中身を見て、静かに我に返るのでした。

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