100マイル地元食は、厳しいルールを決めて、食べたい物を我慢するための食生活ではありません。この食生活を始める前は、いつでも、どこでも、何でも買えていました。一方で、今は、買える食べ物の範囲を限定することで、より深く食べることを楽しむ、そんなことができている気がします。

水産業界の専門家、青木君を招いた水産ウィークの2日目。この日も、食べ物を探すこと、食べることの楽しさを再発見できた1日でした。進路は、北。札幌の我が家から、石狩湾に出て、日本海沿岸を北上していきます。出会ったのは、うまい酒に、うまい肴たちでした。

厚田港朝市のシャコ母ちゃん

天候は生憎の雨。気温も10度台半ばで6月とは思えないほど肌寒い。ですが、車内では、まだ見ぬ食材との出会いを期待した男2人が静かに燃えています。石狩湾沿いを北上し、だんだん建物が少なくなってきたかなと思ったあたりで、慌ててハンドルを左に切ります。偶然、厚田港朝市の看板を見つけたからでした。

厚田港は、石狩市厚田区にある漁港です。北海道の港町としては歴史が古く、1600年頃からニシン漁で栄えてきました。今では、厚田港朝市で有名です。日本海の冬の荒波がおさまる4月から10月頃まで、季節ごとにカレイタコホタテヒラメ秋味(秋鮭)など、厚田港に水揚げされた魚介類が浜値で販売されます。

そして、今の時期の目玉はシャコ。雨の平日のせいか、開けているお店はまばらですが、お店にはシャコが入った箱がいっぱいに並んでいます。シャコは、鮮度が落ちやすいので、水揚げ後、すぐに茹でられていて、お店では、ボイルシャコとして売られています。

目についたお店に飛び込むと、パワフルな漁師町の母ちゃんがいろいろ教えてくれます。卵が食べたけりゃメス、身を楽しみたいなら柔らかいオス。見てくれを気にしないならそっちのハネ品が安いよ。シャコは、皮を剥くのが大変ですが、ハサミを使って剥く方法も親切に教えてくれました。メス6匹に、オス4匹。800g入りのハネ品も買います。

他にも、大きなワタリガニを2匹。これで汁物を作りたい。私の大好物です。

活えびの楽園 増毛

雨にあたって冷えた身体を車に押し込み、さらに1時間ほど北上します。着いたのは増毛(ましけ)。ここもかつてはニシン漁で栄えた漁港。北海道では、東京四ツ谷の有名フレンチレストラン、オテル・ドゥ・ミクニの三國清三シェフの生まれ故郷としても知られています。

ここでは、増毛町の水産加工メーカー、(株)遠藤水産の直売所、港町市場で買い物です。店内には水槽があって、ツブ、ホタテ、アサリの貝類。その奥には、今日のお目当ての活エビがわんさか泳いでいます。種類を見て驚きます。ボタンえび甘えびましけ縞えびの3種類が勢ぞろいです。

甘えびは、私が東京で働いていた時もいつも刺身の盛り合わせに入っている定番のえびでした。北海道に来てからは、何と言ってもボタンえび。ぷりぷり、ねっとりとした甘みは、これまで食べてきたえびの刺身の中で、ダントツ1位だと信じていました。そして、3種目のましけ縞えび、初めて聞く名前です。普段、北海縞えびというボイルして食べるえびはよく見かけます。どんな味がするのか。これは3種類買って食べ比べてみるしかありません。

最北の酒蔵 国稀酒造の試飲カウンター

シャコに活エビとくれば、日本酒が飲みたくなるのもしょうがない。増毛に来たもう一つの目的は、日本最北の酒蔵、国稀(くにまれ)酒造で酒を買うことです。海から200mほどの、港町の中心地にあるこの酒蔵。創業は、明治15年(1882年)。増毛がニシン景気に沸いていた当時、飲まれていた酒のほとんどは本州から運んできた高価なものでした。創業者の本間泰蔵は、そこに目をつけ、地元産の酒造りを始めたそうです。

木造の歴史を感じさせる見事な造り。暖簾をくぐると、かつての雰囲気をそのままにお酒を販売しています。そのまま奥に進むと、ここが人気の酒蔵である理由の1つ、試飲コーナーがあります。実際に日本酒が詰まった大きな仕込み樽の間にカウンターがあり、好みに合わせて日本酒をもういらないと言うまで試飲されてくれます。私はドライバー。やむを得ず、青木君にどの酒を買うかの判断を委ねます。

私が、辛口のさっぱりしたお酒をリクエストすると、代わりに青木君が試飲します。感想は、”辛くて、美味しい”、次に少し甘めのものを頼むと、”甘くて、美味しい。何も伝わってきません。青木君の魚の味を説明する時とは全く違う、表現のシンプルさに、残念な気持ちになります。

結局、お店の方がおススメしてくれた限定品で、ここに来ないと買えない、辛口山廃純米酒を買って帰ります。道中、試飲しすぎて少し愉快になった青木君を乗せて、我が家に着くまでの我慢の運転が続きます。家に着いたら、シャコや活えびを肴に、一杯やる。それだけを考えるとなんとか安全運転で頑張れるのでした。