©100マイル地元食
EPISODE #158
【お料理】茶と黄の2色のサメ料理
高槻商店で見るのも初めての食材、アブラザメを大切に積み込んで、3時間の帰路を走ります。家に着くのは遅くなりそうですが、この日のうちに料理したい理由がありました。それは、あの調味料を使いたいから。
今回は、東静内のアブラサメを2つの料理で食べたお話です。
77マイル(124.4km)先の東静内から帰るには3時間かかります。でも、運転している私は一人でにやけっぱなし。初めて手にした食材をどう食べるのか、考えるだけで楽しくてしょうがない。高槻商店の堀田さんが教えてくれたおススメの料理はなんと味噌田楽。
こんな偶然があるでしょうか。100マイル内の材料で作られた服部醸造の味噌を使いたいと思っていた矢先。いきなりチャンスが舞い込んできました。熟成が進んでしっかりと濃い色になった味噌が食べられる。それだけでも嬉しいのに、さらにサメまで。最高です。帰ってすぐに料理することに決めていました。
調理を急ぐ理由がじつはもう一つありました。サメと言えばアンモニア臭という先入観があり、鮮度が落ちればどんどん臭くなると思っていたからです。できるだけ新鮮なうちに食べることにします。我が家に到着すると、すぐに家族に自慢します。
「サメ、買って来たぞー。」
長男(6)は、動物や魚を愛する好奇心旺盛な学者タイプですが、食べる事に関しては保守的です。「サメ?危険生物だから食べたら危ないんじゃないかな。」あまり乗ってきません。長女(3)は、魔法使いやお城での生活に憧れるお姫様タイプ。でも、食べ物についてはリアリストです。「サメ?いらない。お肉はないの?」
これを聞いて、大人向けに料理すればいいやと割り切りました。結局、新しい食材はいつもこうなります。予定通り、味噌田楽を作ることにしました。臭みを取り除くために、分厚めの切って、沸騰した湯にくぐらせます。身がきゅっと締まって、さらに白くなりました。
次に田楽味噌です。レシピを検索して、我が家にある材料で作れそうなシンプルものを探しました。ごはん展で買った服部醸造の “オール八雲味噌” と砂糖を2:1の割合で混ぜ、お酒でのばします。使ったのはこれだけです。この時点で、鼻の奥から頭に抜けるような、鮮烈な味噌の香りにメロメロになります。
真っ白なサメの身に、褐色の甘い田楽味噌をたっぷりかけ、ガスコンロのグリルで焼きます。湯通しで多少の火は通っていますので、味噌に焼き目がついて香りが立つ程度にさっとです。じゅわじゅわっと泡立った味噌の頂上だけがじりじりと焦げたら完成です。
目の前の真っ白なサメの身に映える味噌の照り。すぐにかぶりつきたい衝動を抑えながら、そっとフライパンを取り出しました。そうです。もう1品作りたい料理があったのです。ちょうど前の日に読んでいたグルメマンガに描かれていた、オーストラリア料理のサメソテーオレンジソースでした。
手に入らないオレンジの代わりに、沖縄旅行のお土産のシークワァーサー果汁を使いました。フライパンにバターを溶かし、1cmほどの薄めに切ったサメを、両面さっと焼きます。先に身をお皿に盛り付けたら、追加のバターとシークワァーサー果汁を入れてサメの肉汁と混ぜます。お塩で味付けをしてサメにかけたら、こちらも完成です。
まずは味噌田楽から食べます。初めてのサメ料理です。しっとりふわふわで、ほろほろ崩れるような食感の身。アンモニア臭なんて微塵もなくて、優しい海の香りがします。その繊細な味と香りを邪魔することなく、田楽味噌の優しい甘さが包んでくれます。やっと食べられた地元の味噌にぞっこんになりました。
ソテーはどうでしょうか。軽く焼いただけなので中はレア。シークワァーサーの凛とした香りと酸味が爽やかにしてくれています。でも少しだけソースの味が強すぎて、淡泊なサメの存在が消えています。高槻商店のサメは新鮮で処理も適切なのでクセがなく、強い個性のソースは必要ないのかもしれません。
遠出したことで偶然出くわしたアブラザメ。そこにやっと日の目を見た “オール八雲味噌”、さらに2,200km先から例外ルールで持って帰ったシークワァーサー果汁。すべての食材に思い入れがあります。子供が食べてくれなかったけど、私と妻は感激していました。
また別の料理方法にしようにと残しておいたサメ。この翌日の夜も、結局同じ味噌田楽にして食べてしまいました。それほどに、プロたちの仕事のおかげで食べられた料理は深く私たちに刻み込まれました。
サメ味噌田楽 (2人分)
サメのソテー シークワァーサーソース(2人分)