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EPISODE #89
【お料理】白老牛ポトフと壮瞥りんごクランブル
100マイル地元食では、地元で買ってきた食材を、手に取った感触がまだ鮮明に残っている、その日の内に料理して食べることで、楽しさと美味しさが何倍にもなると考えています。
でもそれは、1日の内に食材調達も料理も、どちらも頑張らないといけないという意味でもあります。今回は、要領よく作った2品でのおもてなし料理のお話です。
横浜に住む両親が、札幌の我が家に遊びに来て2日目。明日には帰ってしまうので、この時が最後の夜でした。どんなに疲れていても、なんとか美味しい料理で喜んでもらいたい。いつの間にか札幌に移住してしまった勝手な息子夫婦としては、我が家がここに住む理由を五感で理解してほしかったのです。
早朝から弁当を作り、渋滞に峠道を閉ざされて、ぐるっと回り道をして行った壮瞥町(そうべつちょう)でりんご狩り。白老牛を買って、150kmの帰り道を走って、家に着いたのは午後5時を過ぎていました。疲れている子供たちが寝てしまう前に夕飯を食べるには、1時間ちょっとで料理する必要があります。
この日、手に入った食材は、白老牛の中でも安くいですがガチガチに硬い肩肉。それと壮瞥のくだもの農家浜田園で採ったりんごです。作ったのは、白老牛は、やわらかく煮込んでポトフに。リンゴは、妻の作るデザートの中で、私が好きだったクランブルです。イギリスの定番お菓子です。
帰りの車の中で作る料理は決まっていました。家に着くと同時に、料理を始めます。まず、圧力鍋でお湯を沸かします。その間に、白老牛の肩肉を3cm角に切ります。鍋に肩肉を入れ、ひと煮立ちさせたら、お湯を全部捨てます。これで臭みが取れます。
もう一度、圧力鍋に水を入れ、肩肉を戻して煮始めます。その横で、玉ねぎ、セロリの香味野菜を細かく刻んで入れます。沸いたら丁寧にアクをとって、フタをしたら圧力をかけて20分煮ます。その間に、ポトフの具になる、じゃがいも、人参、リーキを大きく切っておきます。
鍋の圧力が下がったら、具とスープを別々にして、スープだけ鍋に戻し、具の中の肉だけまた戻して、切った野菜を入れて、白ワインと塩で味付けして、また圧力かけて20分煮込んで...もう、時間が無いのに、なんでこんな料理を選んでしまったんでしょう。
ポトフは、面倒なメニューに見えて、煮込んでいる間に他の作業ができるので、効率よく美味しい料理が作れます。と言ったものの、やっぱり面倒だ。初めて作るメニューですが、美味しくなかったら立ち直れないほど落ち込むでしょう。
横では、妻がりんごを薄く切っています。とにかくたくさん。大きなガラスの耐熱皿にスライスしたりんごを敷き詰めて、仁木町の紅果園で買ったカシスと、ルスツの道の駅で買えたアロニアというベリーをのせ、レモン汁の代わりの梅酒と砂糖を振りかけます。
後は、ボロボロ崩れるという意味の英語、クランブル(Crumble)の通り、小麦粉で作ったクッキー生地をかけて、オーブンで焼いていきます。りんごがあればすぐに作れるレシピで、この日のデザートにぴったりでした。
ついに完成したポトフの鍋を開けました。金色に透き通ったスープに、煮崩れる寸前の絶妙なタイミングの白老牛と野菜たち。我が家のプランターで育てたローズマリーの香りが爽やかです。その味は、もう家庭料理と呼ぶにはもったいないレベル。
長い1日に疲れた身体に、白老牛の赤身の旨味、野菜の甘味と香りが沁み込んできます。温まって、ほっとして、また少しだけ元気が出てきます。硬くてそのままでは食べられない肩肉が、とびきり上品なスープ料理になりました。
これで終わりではありません。焼き上がったクランブルが待っていました。上のクッキーはサクサク。下のりんごは、歯ごたえを残しながら、しっとり甘い果汁に包まれています。熱々に焼き上がったりんごから立ち上る香りは、さきほどまで駆け回っていた、果樹園の風景を思い出させてくれます。
限られた時間で、素材の持つ可能性を最大限に引き出すことができた、この日の料理。両親はもちろん喜んでくれていましたが、それ以上に、私と妻にとって、少し背伸びした世界を覗けた、大切な夕食になりました。
白老牛のポトフ(4人分)
壮瞥りんごのクランブル(6人分)