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寿都刺し盛りと神恵内の貝

EPISODE #14

寿都刺し盛りと神恵内の貝

2017.6.25

お料理,シーズン1

 寿都(すっつ)と神恵内(かもえない)での食材調達遠征から我が家に帰ると、妻、お義母さん、子供たちが出迎えてくれます。

「何、買えたのー?」

 大きなクーラーボックスを得意げに開きます。寿都漁港で大串さんから買った魚たちと、神恵内で買ったカキとホタテ。さすがに買い過ぎたかもしれませんが、美味しく楽しくいただければそれで良しでしょう。

 青木君と2人での100マイル地元食クッキングが始まりました。

寿都漁港の刺身盛り合わせ

 寿都漁港の直売所で購入した食材の内、刺身で食べられるのは、メナダ、ウマヅラハギ、ツブ、サクラマスです。それに、神恵内で買ったホタテも追加して6品の盛り合わせを作ります。

 この調理は、青木君にお任せします。彼は、大学の水産学部を卒業後、熱帯魚店で修業をし、念願の自分の店を出しました。今では、熱帯魚店もそこそこにして、築地市場で知人の仲卸の会社を手伝う傍ら、個人でTV番組の撮影で使われる生きた魚や小動物を手配する仕事をしています。

 そして、魚食拡大という高い理想のために、機会があれば学校やイベントなどで魚介類の調理のプレゼンを行っています。100マイル地元食の考え方にも賛同してくれたらしく、北海道滞在中も”ほぼ”100マイル内の食べ物だけで頑張ってくれました。

 手際よく、メナダを三枚おろしにしていきます。青木君曰く、メナダは皮が分厚く歯ごたえがあって美味しいとのこと。皮面だけをさっと直火であぶって焼き霜造りにします。そして、メナダのへそと呼ばれる内臓も刺身にします。胃袋の入口、幽門が発達していて、刺身にするとコリコリして美味しいようです。

 ウマヅラハギは、腹が大きい、肝をたっぷり持っていそうなものを選びました。こちらは皮を剥いで薄造りにします。肝は、ネギ、青じそと一緒にたたいて、留寿都のよしかわファームさんの大豆自家製味噌で味付けし、肝和えを作ります。

 他にも、サクラマス、ツブ貝、ホタテをそれぞれ刺身にし、盛り付けていきます。添えるのは北海道らしく、山わさび(ホースラディッシュ)です。

神恵内の蒸しガキと焼きホタテ

 神恵内の三浦漁業部で特別に買わせてもらったカキは、蒸しガキにします。2年前に北海道に来て間もなくの頃、一人でふらっと入った海鮮料理のお店がありました。そこでは、北海道で採れた新鮮なカキを、生、焼き、蒸しの3種類の調理法で食べ比べさせてくれました。

 生ガキは、ジューシーで爽やかな海の香り。喉をつるっと通っていきます。焼きガキは、熱が入ったことで旨味が活性化し、水気もとんだ分で濃縮された味わいです。そして、蒸しガキ。こちらは、生と焼きのちょうど中間、ジューシーさと濃い旨味の両方を楽しめる、良いとこ取りの調理法でした。それから、我が家ではカキを食べる時は、必ず蒸しガキと決まっています。

 殻を開けたカキを、水と日本酒で5分ほどさっと蒸すだけで完成です。

 オスコイ!神恵内のホタテは、殻を開き、貝柱、ひも、卵巣だけにして殻に戻します。フライパンに少しだけ水を張り、殻を並べて火をつけます。途中、フタを閉めて蒸しながら焼きます。5分経ってフタを開けると、殻にはたっぷりと汁がたまっています。1滴も無駄にしないよう皿に盛る、緊張の一瞬です。

 カキも、ホタテも味付けはしません。どちらもさっきまで海水に入っていたので、ちょうど良い塩味になっているからです。

口の中いっぱいに日本海の風

 ロングドライブ食材調達で疲れ切った私たちは、空腹もピークです。男たちの騒がしい料理を横で見ていた、家族も娘も待ちきれない様子。寿都と神恵内の日本海の魅力を凝縮した夕食の始まりです。

 まずは刺身の盛り合わせから。子供の頃の思い出から、臭くて食べられないと信じていたボラの仲間、メナダの焼き霜造り。口に運んで驚きます。全く臭くない。それどころか、爽やかな独特の香りがあります。厚い皮はサクサクとした歯ごたえで香ばしく、さっぱりした身にアクセントを与えています。岩内の星の塩だけで食べることで、より深く、メナダ本来の味を感じることができました。

 ウマヅラハギは、肝和えを乗せていただきます。プリプリとして透き通った白身と、肝和えのコクのある旨味が、互いの良さを引き出しあう素晴らしいバランスです。他にも、メナダのへそのコリコリした歯応え、ツブ貝の潮の香り、サクラマスのしっとりとした旨味、ホタテのとろける甘み、全てが盛り合わさった一皿でした。

 そして、神恵内のお母さんの蒸しガキです。殻を持ち上げ、身と汁を一口でいただきます。ミディアムレアに蒸しあがった肉厚のカキから、濃い旨味が口の中にあふれ出します。波のように何度も押し寄せる複雑な味わいに、言葉を失う幸せな数秒間。

 最後に焼きホタテ。プリプリの貝柱、シャキシャキのひも、ふんわりの卵巣。贅沢な歯応えの応酬。不思議な感覚もありました。ホタテ以外、何も足さずに料理したのに、ほのかにバターのような香りとコクを感じます。本当に新鮮で美味しいホタテは、バターを入れなくとも、見事な一品にになりました。

 人と食材との幸運な出会いのおかげで、これ以上は無いと思うほど、美味しい夕食を家族+1で囲むことができました。明日の食材調達は、北に行こうか、南に行こうか、楽しく盛り上がる初日の夜でした。

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